甘えん坊

「貴方は、誰かに甘えたりしないの?」


窓の近くに置かれた大きなドレッサー。

金色のレリーフで縁取られた、煌びやかな鏡台は、ところどころ箔がめくれている。


「私はもう、大人ですから。」


「甘えたくはならないの?」


今日も櫛を手に取り、髪を梳かす。


「なりません。」


「可愛くないわね。」


「すみません。」


規則的に動く髪と櫛。


「ねえ、私の目を見て。」


従者が鏡に映るお嬢様の目を見つめる。

一、二、三。

従者が視線を手元にそらせる。


お嬢様がクスリと笑う。


「今はこれでいいわ。貴方は大人だものね。」


からかうような声色。


「お嬢様は、ずっと子供みたいですね。」


乱雑な声と、丁寧に動く櫛。


「悪い?」


丁寧に動く櫛。


「いえ、ずっと子供のままでいてください。」


優しく髪に飾りをさす。


「お嬢様、今日もお綺麗です。」


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