5。~氷のぬくもり(3)

「そうか…シヴァは…召喚士バロンと言うひとと一緒に……」

 情報屋リウォードのこじんまりとした平屋の建物の中で、コルクは言った……。

「ああ…。世界中の至る所で…シヴァがバロンと行動をともにしているという報告があるよ……」

 相変わらず、ポクポクとマッサージチェアに頭をたたかれているアマンは言った……。

「シヴァがもう…古代遺跡キーンにはいないんじゃ…キーンに向かっても…意味がないかな……。召喚獣シヴァがいた所を、見に行くだけ行ってみるのも……いいかもしれないけど……」

「……」

「わかったよ、アマンさん……。召喚獣シヴァに関しての情報、ありがとう……」

「まぁ……」

 コルクは、窓の外を見ながら言った……。

「それにしても…よく降るな、この雪……。ここはいつも…こうなのか……?」

「いや…。確かにここは、嵐のときもあるけど…いつもは晴れ間もよくあって……今日のは…自然の天気、もだよ……雲が…でているから……」

「雲?」

「ああ……。この雪も含めて…古代遺跡キーンに関しての情報が…まだあるんだけど……聞くかい?」

「ああ……」

 アマンは…一呼吸してから…話しだした……。

「雪山シャンの裏手に位置する古代遺跡キーンへの雪山シャンの雪道は…登頂するのには…そんなに難しい雪山じゃない。シャンの標高は四百メートルくらいで…ひとにもよるけど…三四時間もあれば…登頂できるほどだよ……。それに、空を飛んだりの浮遊魔法を使ったら…もっと早くキーンに行くことができるし…この村を介さなくても…少し複雑な地形の裏手からまわって入山すれば…キーンにはもっと早く辿り着くことができる……」

「裏手があるのか……」

「まぁ……モンスターなどが多いいからね…あんまりおすすめはしないけどね……」

「そうか……」

「だけど…ここ一ヵ月くらい前だったか……古代遺跡キーンを中心とした、広範囲の周囲の天候が、急に…わるくなったんだよ……。それからはずっと…そのキーンの周辺は吹雪がひっきりなしだよ……。晴れ間もあるのにだよ……。普段は確かに…軽く雪が降っているときには……明るく青空のときもあったりして……吹雪のときまでは……。だから…今となってはキーンの中に入るのは難しく……キーンに近寄る事さえも…非常に難しくなっているんだよ……」

「空が晴れているのにずっと吹雪……? 自然の天気が理由ではないのか……」

「ああ……。最初は誰もが自然の天気だと思ったよ……。山の天気は…変わりやすいから……。だけど…その原因を調べに行った者の話では…確かにキーンの中には…何かがいるらしくてな……」

「何か……」

「ああ……。そのしょんざいが…その存在が…魔法や魔導具などの魔力の力で魔法を使って…吹雪を発生させているのかもしれないと……。本当にそうなのかどうかの本当のところは…正直よくはわからないけどね……。だけど…実際にここの雪からは…魔力が感じられているし……古代遺跡の周辺にだけ吹雪く天気というのは……不自然だとは思わないかい……」

「謎の存在か……。確かにここの雪からは…オレも魔力を感じてはいるけど……。シヴァが…帰ってきたとか……」

「そうかもしれないし…違うかもしれない……。この原因の調査の為に、古代遺跡キーンに向かった者の中には……今では…消息不明になっている者や……亡くなった者もいて……。村の中に…慰霊碑もあるけど……」

「慰霊碑……」

「ああ……。きのうも…村の為にもと…旅の魔法使いの人が…キーンに向かったけど……未だに帰ってきてないんだよ……」

「……」

「調査を断念したりして…キーンから命からがら、ここまで生きて帰ってきた者の中には…キーンの中に何がいるのかをはっきりと見たものはいなくてね……」

「そうか……」

「シヴァが以前…シヴァの魔穴である古代遺跡キーンにいたときには…こんな一か月以上もの長い間、吹雪が続くなんてこんな事は…私達の知る限りでは、一度もなかったんだよ……。シヴァが何らかの理由で魔法を使っていたとしても…普通に穏やかだったからね……」

「そうか……。確かにシヴァが古代遺跡キーンに帰ってきていたとしたら……不自然か……」

「ああ……。それで…今回の古代遺跡キーン周辺の天候の原因が何なのか……六つの可能性を考えたよ……」

「六つ……」

「ああ…。一つ目は…それでも、召喚士バロンとの旅を終えて…シヴァがキーンに帰ってきたって事……」

「ああ」

「二つ目は…あの雪山に生息しているモンスターも含めて…何かのせいぶつが……キーンの中に巣くっている…という事……」

「モンスター……」

「ああ……。三つめは…どこかの誰かが…古代遺跡の中で…魔法や魔導具などといった魔法関係の力を使って…何かをしている…という事……」

「どこかの誰か……」

「四つ目は…古代遺跡キーン自体が…原因だって事……」

「あ…そうか……。古代遺跡キーンに溜まった魔力の暴走など…って事か……」

 こくん。

「なるほど……。五六年分もの間、シヴァが不在で…魔穴の中の魔力が…溜まっていく一方だから…魔導具でもある古代遺跡が…その事に反応して……」

「ああ……。かもしれないけどね……その可能性も視野に…動いてはいるけどね……」

「そうか……」

「五つ目は……この星…フローアの異常気象が原因だって事……」

「フローアの異常気象……」

「ああ……」

「そして、六つ目は……あの魔穴で…シヴァに吸収されずに…溜まりに溜まった五六年分の…あの魔穴の中の、その魔力によっても……新たな召喚獣が誕生しているという事……」

「新たな召喚獣!?」

「ああ……。古代遺跡にはまだ…謎が多いいから……その可能性も…否定はできないよ……」

「……。だけど召喚獣は…古代の魔法使いによって生み出された魔獣……。古代の魔法使いは…何も人間だけではない……。召喚獣は、その古代の魔法使いの中のひとつの種族である、超獣人の存在によっても、生みだされたんだ……。だけど…その超獣人達は…今はもういない……。それなのに、どうして新しい召喚獣が誕生するんだ……?」

「そうだね……。召喚獣がどうやって…古代の魔法使いによって生みだされたのかは…その方法はわかってはいるけど…実際には…今現在では誰も……召喚獣を生み出す事はできないよ……。だけど……永い年月の中でキーンは傷んできたといっても…古代遺跡キーンは今も、いきている……。だから…もしかしたら……新たな召喚獣が誕生しているのかと……」

「……。新たな召喚獣が……そんな…まさか……」

「……。どの可能性にしても…現地に向かってこの事を解決して天候を回復してくれたら…村からも…お礼のお金がでるから……。見ての通りこの村は…この雪で交通の便も止まったりしていて…この村への、まとまった物資の配達なども滞っている常態だからね……」

「そうか…それは大変だな……。オレも、ここまで来たわけだから……行ってみるだけ行ってみようかな……その古代遺跡キーンに……」

「そうかい……。お金はかかるけど…キーンまでの案内をつけようか? 案内役にも…生活があるから……」

「いや…オレは一人旅だからな……。雪山で何かあっても……そういうのは…極力避けたいから……」

「そうかい……。それなら…はい」

 アマンはカウンターの引き出しから、何かの軽く巻かれた紙と、お守りらしきものをとりだして…コルクに渡してきた……。

「これは?」

「キーンまでの地図と…ここまで無事に帰ってくる事ができるようにとの…お守りのタルチョだよ……。持って行っていいよ」

「ああ…ありがとう、アマンさん……」

 コルクはキーンまでの道のりの地図とお守りを受けとった……。

「いいって事よ……私はボス、だからね……」

「あはは、ところでアマンおばあさん」

「なんだい?」

 ポクポクポクポク。

「そのマッサージチェア…そこの、アマンさんの頭をポクポクとしている部分の本来の使い方は…頭をポクポクとするものではなくって……肩をたたく部分ですよ?」

「ふ、ああ…知っているよ……。でも…買ったからには使わないと、持ったいないでしょう……。高かったんだから……」

「そうですか……。それは…失礼しました……」



 翌朝。

 コルクは雪山シャンに入っていった……。

 それから…小一時間くらいだろうか……。

 コルクが雪の中の雪山の斜面をゆっくり…しっかりと足を踏みしめて、登っていっていたときの事だった……。

 足取り重く…コルクがゆっくりと歩いていると…目の前にひとが……雪に埋もれて倒れていた……。

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