すべてがつごうのよいせかい
立木ヌエ
神託
広く豪華な装飾に満ちた玉座、そこに座るのはいくつにも枝分かれした腕に、力の象徴としても用いられる大きくねじれた角、あらゆる動物の頭部に似た体の突起を持つ魔物だった。
どうしてこうなった。なぜこんな恐ろしい怪物と戦っているのだ。きらびやかな装飾をあしらった伝説の防具に身を包み、戦闘によって乱れた茶色の髪をかき上げると、少年はその手に持った竜と神を象る聖剣を強く握り前に構える。
後悔と怒り、ほんの少しの使命感を感じながら、その気持ちを一点へと込めて全力で地を蹴る。
彼のいた扉付近には、少女がいた。白い修道服をまとっており、祈るように手を握ると、信頼に満ちた強い眼差しを少年に向け、少女は自身のやるべきことを思い出す。その口元はかすかに笑っていた。
しかし、これは叶わない夢だった。いや、この展開になったとしても、きっと……。
◆
――ある日、神託が下った。約三十年弱ぶり、前の勇者が魔王を討伐する運命に足を踏み入れた時以来の神託だった。
気づけば次代の魔王が生まれ、世界は不幸のサイクルからまた抜け出せなかったのだと悲観した。前回の勇者が強く、偉大であったことも余計に人々を絶望の深い穴へと突き落としていたちょうどのタイミング、一筋の光だった。
勇者の名はシグル。いたって普通の青年で、これまで過ごした十八年という月日からは想像もつかない「勇者」などという言葉に動揺し、頭を抱えながら、彼は魔王のいる城へと旅に出るのだった。
◆
『シグル。神託により、貴殿に異能が託されたことが分かった。そして主は同時に勇者として魔王を討伐する使命を果たせとの仰せだ』
「……は?」
それは奇妙な夢のようだった。
その日はいつもみたいに親の手伝いで畑仕事で一日を終えるはずだった。
でも、朝早く、村の教会から神父がやってきて、俺を教会へと連れ出した。しまいにはこれ、神様が俺に力を授けたから魔王を倒せ?
――冗談じゃない。俺はそんなたいそうなことをしたくないし、できる器でもない。普段は農業して、たまに村の周りに魔物が出たらみんなで討伐する。そんなゆったりとした生活がしていたかったのに。
それでも、国教相手に何を言ってんだとも言えないし、神託を信じるしかない理由もあった。
『――シグル、あなたに私の力を授けます。人類のために、魔王を倒すのです』
今朝見た夢だった。真っ白な人型がそうささやいてくるだけの内容。くだらないのにやけにはっきり覚えていた。起きてからの出来事も実はこの延長線上なんじゃないかと疑っていたが、額をつねると痛い。現実だとわかると頭痛がした。
「……わかりました。必ずや魔王を打倒して見せましょう」
こう言うしかなかったんだ。逆らえば両親がどうなるか。想像は難しくなかった。どんなに小さな村だろうと教会があるというのに逃げられるはずもないのだ。
こうして、俺は旅に出た。戦闘は村の周囲の魔物と戦った程度だったが、異能のおかげですべてが都合よく進んでいった。
俺の異能は「幸運」ただただ運がいいだけ。魔物に切りかかろうとした時にこければ、その目の前がたまたま現れたドラゴンに踏みつぶされて、かと思えばなぜかドラゴンは去っていく。そんな感じ。旅をしてると正直強い気もしてきてた。戦いじゃなくても、たまたま雨宿りした洞窟に金貨があったりして金には困らないし。
かといって、俺は孤独な旅は耐えられないだろう。でも、そんな不安も一人の仲間がいたからなんとかなった。
旅に出ることになったとき、家で支度していると、女の子が訪ねてきた。
メディと名乗るその神官は、真っ白な修道服に黄色い長髪の明るい子だ。俺と歳が同じらしい。
『私! 主に選ばれたあなた様のお力になりたくて! どうか、旅に連れて行ってはいただけないでしょうか!』
こう言って、俺の手を強く握ってきたのだ。
勢いに押され、俺はメディと二人で旅をすることになった。
これがはじまりだった。
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