十五、謝罪の理由を聞いてみた
弟二人は落ち着かない様子だったが、俺はゆっくりと茶を啜った。
このお茶も、
弟たちや彼らに仕えている者が俺に危害を加えたりはしないだろうが念の為だ。こういうことをいちいち気にしないといけない生活って疲れるけど、こういうものなんだよな。
「それで、あの謝罪文は何だ?」
俺はコトリと茶杯を卓に置いてから、静かに問うた。
「も、申し訳っ……」
「謝罪が聞きたいのではない。理由を話せ」
二人は真っ青になった。途端に侍従と侍女たちがまた一斉に平伏した。
「たいへん申し訳ありません! 私が二人をお止めしなかったばかりにっ!!」
……俺はいつになったら宮に帰れるんだろうと遠い目をしたくなった。
はぁ……と
「そなたたち、
呂偉に言われて、侍従たちは顔を少し上げた。
話はこうだった。
この四合院の一角には木が生えており、その周りに草花が植えてある。五日ほど前、そこで弟たちが遊んでいた際蛇を見つけた。それにびっくりした
「ほう……?」
壁はそれなりに高いのだが、それを超えるほどの力で蛇を投げるなんてすごいなと俺は素直に感心した。
「隣の宮で作業する者がいた為、すぐに蛇は見つかって処分されるものと思っておりました。たいへん申し訳ありません!」
「ふむ、となると蛇は元々こちらにいたものが来たということだな?」
「はい、おそらくは……」
もう小白が食べてしまったので、あの蛇が本当に毒蛇であったのかもわからないし、実際にこちらの宮から投げ込まれたものなのかも不明だ。
とにかく証拠もないが、知らないフリをしなかっただけいいとしよう。
「よい。今回は不問に付す」
「殿下?」
呂偉は眉を寄せた。
あれが本当に毒蛇であったなら大問題だと言いたいのだろう。
「二度としなければいいだけのこと。もし次にこちらの宮で蛇を見つけたら教えてほしい」
「ありがとうございます! ですが……何故ですか?」
弟たちはバッと頭を下げてから、そおっと顔を上げて聞いた。好奇心には勝てなかったみたいだ。そんなところは好ましいと思う。
小白はマイペースに動いており、俺の
飽きたらしい。まぁ、気持ちはわかる。
「小白が食べる」
「は?」
「え?」
二人は不思議そうな顔をした。
「普通のニワトリはどうかは知らぬが、小白はあの蛇を食べてしまってな」
「「えええええ!?」」
二人の声が合わさってとてもうるさい。
「……わかったのか?」
「は、はい!」
「わかりました!」
今後この四合院の中で蛇を見かけるようなことがあれば、声をかけるようにということは伝わったようだった。
それにしても、毒蛇かもしれない蛇を掴んで投げるとは剛毅なことだ。
「もちろん、そなたらの安全を確保した上でのことだ。二人を頼んだぞ」
「
最後の言葉は二人に仕えている者たちに向けて言った。彼らはバッと拱手した。
「ところで、庭に出てもよいか?」
「はい、案内します!」
二人は目を輝かせて立ち上がった。この二人は現在八歳と九歳である。俺とは一つ二つしか違わないが、随分と幼い印象を受けた。
とはいえ、きっと俺も去年や一昨年はこんなかんじだったのだろうと思った。
「小白、待たせたな」
足下にいる小白を促し、表へ出た。
日中もかなり涼しくなってきた。もう
四合院の真ん中にある、木や草が植わっているところに案内された。
「ここで蛇を見つけまして……」
俊飛が言う。
「そうか」
すると小白がいそいそと草の間に入っていった。
「あ、あの……」
弟たちは戸惑ったが、これはいつものことである。小白に怖い物はないらしい。好奇心のおもむくままに行動する小白は、さっそく獲物を嘴に咥えて戻ってきた。
「ほう……」
「ひぃっ!?」
「ええっ!?」
それは小さめの蛇だった。先日小白が捕まえたものよりは小ぶりである。
「もしかしてここに蛇の巣があるのではないか?」
「ええっ!?」
「そんなぁっ!?」
弟たちは悲鳴を上げた。気持ちはとてもよくわかる。勝手に人んちに巣なんか作らないでほしい。
小白は俺を見てコキャッと首を傾げた。
「ああうん、食べていいよ」
許可を出すと、ガブガブと音を立てて食べてしまった。小白って歯ぁ生えてるよな、絶対。今度改めて確認してみよう。
そうして、結局こちらの庭部分も捜索することになってしまった。
捜索をするのは主に衛士である。それに武官が付き添って調べることとなった。その間弟たちのいる場所がないということで、俺の宮に連れて行くことに。
「四合院は広いので、明日までかかりそうです」
武官に言われて俺は内心ため息を吐いた。確かに建物二軒分は空き家だ。その中になんらかの生き物が棲みついていないという保証もない。
「わかった。二人のことはこちらで預かろう」
そうして、図らずしも弟たちとうちの宮でお泊まり会をすることになってしまったのである。
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