『ギギの物語』第1章 ミドリノモリと旅立ち

『ギギの物語』

【第1章】#01 ミドリノモリのヒッコリーの木

ミドリノモリに春が来ました。森の生きものたちが楽しみに待っていた春のおとずれです。木々の葉のあいだからキラキラと太陽の光がこぼれ、やわらかなざしが春の風にれてカーテンのように石の広場をらしています。


この森は不思議ふしぎな形をしています。背の高い木々が手をつなぎあってみどりゆたかなドームを作り、まるで丸いおわんをひっくり返したようです。ドームのてっぺんに小さな穴が開いていて、そこから太陽のざしがみます。


ざしの先は小さな広場になっていて、そのなかに大きな石の舞台ぶたいがあります。夏の夜はホタルの舞踏会ぶとうかい、秋には虫たちの演奏会えんそうかいが開かれて、とてもにぎやかです。この小さな広場はミドリノモリに暮らす生きものたちのいこいの場所なのです。


この石の広場がどうして出来たのか、そのことをお話ししてみましょう。


昔、ここにはヒッコリーの大木たいぼくが立っていました。ミドリノモリの生きものたちは毎日その大きな木の下に集まって楽しい時間を過ごしました。地上ちじょうに顔を出した太い根の上にすわっておしゃべりをする者、枝にとまって歌を歌う者…   雨の日には大きなうろがみんなの避難場所ひなんばしょにもなりました。何百年ものあいだずっとそこに立って森の生きものたちを見守っていたヒッコリーでしたが、長いときの流れは彼を弱くいさせていました。


ある夏の日、突然とつぜんやって来たはげしいあらしかれて、ヒッコリーの大木たいぼくはあまりにあっけなく…  あっというたおされてしまいました。思いがけない出来できごとに森の生きものたちはとても悲しみました。いつも彼らをやさしく守ってくれたあのヒッコリーが…  森のなかにぽっかりあいた空間くうかんは、まるで彼らの心のようでした。ヒッコリーが立っていた場所には、丸く小さな空ができ、足元あしもとには太い根がかかんでいた石が地上に出ていし舞台ぶたいを作りました。地面に残された爪痕つめあとからはき水が生まれ、やがて小さないずみへと姿すがたを変えました。


いつのころからでしょう。ミドリノモリの生きものたちがヒッコリーのことを思い出すこともなくなった頃、誰が名づけたでもなく「石の広場」と呼ばれるようになりました。


かつてヒッコリーの大木たいぼくが立っていた時と同じように、今もミドリノモリのあちこちから沢山たくさんの生きものたちが集まってきて思い思いの楽しい時間をごします。


今朝もさっそく早起きのコマドリたちがやって来て、きれいな歌声うたごえ披露ひろうし始めました。ミドリノモリのにぎやかな一日の始まりです。


      ◇


  ミドリのミドリのミドリいろ

  みどりのみどりのそのおく

  かわいい子らがねむってる

  おそとはこわいよなかに

  ミドリノモリはまもがみ


  ミドリのミドリのミドリいろ

  しずかなしずかなそのもり

  おまえのミドリはどこだろう

  さがしてごらんよ ひーふーみー

  わたしがとしたミドリ色

  それはくしたままかしら


      ♩


(つづく)

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