seriousへの依頼
【みどり荘203号室連続失踪事件】
被害者:
みどり荘管理の不動産会社社員。入居調査中11月2日未明に消息を絶つ。
現場は施錠され、荒らされた形跡なし。
部屋の中央にスマートフォンが残置。
録音アプリ起動中であった。
「やっぱり……。こりゃホンモノ、かもなぁ……」
フリーライターであり、心霊スポット検証チャンネル『serious《シリアス》』の編集者でもある俺──
ずん、と重苦しい空気が、狭いこの編集室に漂う。
壁にかけられたホワイトボードには、びっちりと取材スケジュールが詰められ、その隅に、赤いマーカーで大きく“みどり荘”と書かれた文字が存在感を主張する。
この報告書を読んだすぐ後だからか、そこだけ、まるで血が滲んでいるように見えた。
SNSのDMに届いた一通の依頼が、俺をこの事件へと引きずり込んだ。
いや、もしかしたらその前からすでに片足突っ込んじまったのかもしれないが……。
DMはこうだった。
『serious編集者の赤嶺さん。はじめまして。ある録音を聞いた同僚がいなくなりました。あなたなら真相を見つけられると思ってご連絡させていただきました』
そんな文章から始まるメッセージ。
行方不明になったのは、なんと前に俺も友人から心霊関係の相談で紹介されたことのある、石川匠だったのだ。
そのメッセージには、石川さんは自身が所属する不動産会社の物件であるみどり荘で失踪した入居者・
田島さんの残していた記録に奇妙な点が多く、担当者であった石川さん自身が203号室に入居して調査をしていたらしいことが書かれていた。
――そしてその調査中に、彼もまた忽然と消えたのだという。
結びにはこうあった。
『メモや録音は、どこか作り物めいているのに妙に生々しく、普通じゃないように思うんです。どうか、真相を探ってください』
添付されていた画像ファイルを開くと、みどり荘の簡素な間取り図が映し出された。
古びた木造アパート。二階建て、外廊下に面した六畳の部屋。
その203号室の下、ペンで殴り書きしたような文字があった。
おそらく、石川さんの字だろう。
『夜中に声が聞こえます。だけど決して録音してはいけません』
最初はただの怪談じみた警告かと思った。
だが、何度読み返しても胸の奥にざらついた感覚が残る。
“録音してはいけません”――なぜ録音だけが危険なのか。
聞いてしまうのはいいのか。
それとも“聞こえる”というのは近隣住民の声か何かで、聴こえること自体はそもそも正常ではないのか。
正直、意味は分からない。
だが、以前1度だけ会った石川さんは、げっそりとして、心神喪失をしていたように見えた。
そして言っていたのだ。
「どうしたらいいですか……。声が、声が離れてくれないんです……」──と。
あの時は軽くアドバイスをして、落ち着いたら取材をさせてほしいことを伝えて別れたが、まさかこんなことになっているとは……。
この失踪事件報告書によると、石川が失踪した時、部屋の中央に残されたスマートフォンは――録音アプリが起動したままだったという。
空耳だと、偶然だとは言い切れない。
正直、偶然じゃない気がする。
俺は壁の“みどり荘”と書かれた文字を見つめ、静かに息を吐いた。
「……行くしかない、か」
薄暗い部屋の静けさが、音を吸い込むように深まっていく。
この時はまだ、俺の中ではただ未知なるホンモノに出逢えるのではないかという期待だけが沸き上がっていた。
ーあとがきー
カクヨムコンスタート!!
今回は初めてモキュメントホラー長編で挑みます!!
昨年からちびちび書き溜めていた作品。
皆さま気になっていただけましたらぜひ、作品フォローの方よろしくお願いいたします!!
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