【石川の報告書001】


【資料番号:01】

 作成者:不動産管理会社セルヴィ 管理担当 石川


 一、経緯

 10月20日午前3時34分、当社が管理するみどり荘203号室の入居者・田島慧氏より「隣室から声がする」「助けて」との通報をメールで受けた。


 当物件の隣室(202号室)は空き部屋となっており、居住者登録は存在しない。

 にもかかわらず田島氏のメールによれば「人の声がする」「名前を呼ばれた」と訴えていた。


 メール確認後当初は錯覚と判断し、数日後に様子を見に行くことにした。

 ──しかし、その胸を伝えようと電話をしても出ることはなく、メールをしても彼からの返信はなく、連絡を絶っており、現在行方不明。



 二、現場確認

 後日、警察の現場検証が終わったため、弊社の立ち入りが許可される。

 警察立会いのもと、マスターキーで解錠。

 ドアを開けると、空気が異様に重かった。

 カビやゴミの臭いではない。

 金属を焼いたような、焦げ臭さ。


 部屋の中央にはスマートフォンが1つ置かれていた。

 画面には「録音中」の赤いアイコン。

 再生時間【00:03:34】。


 警察はなぜこんなところにスマートフォンがあるのか、全くわからないようだった。

 録音が止まった瞬間、ノイズ混じりの音が一瞬鳴り、アプリが自動で閉じた。

 以降、手動でアプリの起動できず。

 後日判明したが、スマートフォンは行方不明になったはずの、田島氏のものであった。



 三、室内の状況

 私物など生活感のあるものはなにもない。

 何故かスマートフォンがあるのみで、アプリが起動。

 その後アプリは意図的に起動することが不可能になる。


 床の一部──窓際の畳が、不自然に黒ずんでいた。

 水ではない。すでに乾いてある。

 火気使用の痕跡はなし。


 壁面(202号室側)にのみ、奇妙な痕が確認された。

 人の手形のようだが、指の長さが通常より明らかに長い。

 押しつけたというより、内側から“浮き出ている”ようにも見える。


 写真記録を撮ろうとしたが、三台のカメラすべてで同じ現象が起きた。

 撮影直後、データが破損したのだ。データ修復、不可能。



 四、録音データについて

 田島氏のスマートフォンは電源を切っても自動で再起動し、録音アプリが立ち上がる。ただしアプリは意図して起動することは不可能で自動で起動するのみ。


 全てのファイル名は【REC_001】から始まり、【REC_008】で終わっている。


 以下、再生記録。

 ※音声の一部はノイズで不明瞭である。



【録音内容要約】


 無音の中、微かな呼吸音。

『……聞こえてる?』という声。

 性別不明、ただし被験者本人の声紋と類似。


 ファイルによって、特に最後の方では田島氏の悲痛な声が記録されている。


 最後のファイル【REC_008】。

 田島氏の悲痛な叫び。そして田島氏の声が『たじまあきら』と繰り返し、そして何十二も重なって自信の名を呼ぶ声。


 再生終了と同時に端末の画面がブラックアウト。



 五、異常の拡大

 警察の取り調べの際、街灯物件の大家(女性・67歳)の証言より。


『この部屋……前にもいたよ。同じ人……』

『あぁ……3年前にも、田島慧がね。いたんだよ。同じ顔だった。今回の田島さんと』


 当社のデータベースに契約記録有り。

 3年前に半年のみの居住で、データは厳重に別途ファイル保管されていた。



 六、調査メモ(石川個人記録)

 現場検証後の訪問時のこと。

 202号室の扉に何かが貼られていた。

 白いメモ帳の切れ端。

 鉛筆書き有り。


『録音 3分34秒』


 紙には小さな赤い染み。

 指で触ると、まだ湿っていた。



 七、補足映像(監視カメラ)

 みどり荘の外廊下カメラにて、10月20日午前3時34分、203号室前に人影が確認された。


 被写体は男性。

 Tシャツ、スウェット姿。

 顔はうつむいており、識別不能。

 ただし、衣服・体格ともに田島慧氏のものと一致。


 映像の最後、男は203号室のドアノブを握ったまま、ゆっくりと“内側へ”沈むように消えた。

 扉は開いていない。

 まるで、壁に吸い込まれるように消えた。


【報告者署名】

 不動産管理会社セルヴィ 管理担当

 石川匠


 ※録音データ【REC_001〜006】および監視映像は確認後、全て消失。

 バックアップも復旧不能。


 以降の記録にて、当社管理サーバーの音声ログに『……聞こえてる?』という声が断続的に混入。

 調査継続中。


 尚、調査の為、担当者石川がしばらくこの203号室に住むことになる。

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