メンズアイドルとヤンデレファンBL

nayo.

ちょっと長いプロローグ

 RNDエンターテイメントはビジュよし、歌よし、ダンスよしの最強事務所。地下アイドルを多く輩出するメンズ系の事務所だ。男装女子はいない。だから安心して推す女子が多い中、困った事にファンの中にはストーカー化する子も多い。ユウトもそれは気を付けていた。tiktok配信でも部屋の壁は映していても、小物やほかの家具は映さなかった。LEDで縁を彩り、ゲーミングチェアで配信してみっつのモニターで配信しているユウトはメンバーカラー黒の男の子だ。たくさんのピアスを着けて、背中には鯉の入れ墨がワンポイントで入っている。他の子は清楚とかそういたタトゥーが入っている子も多い中、ユウトは和彫りなのは昔チームに入っていたからだ。千葉の某所でバイクサークルに入っていた。みんな思い思いのバイクで走っていて、楽しかった。珍走団と合同で走ることもあるが、車のカスタムが多い。黒みちゃんを前面にペイントした車もある中、うちらのサークルは単純にバイクのカスタムだ。ライトをピンクにしたり、マフラーを改造して音を鳴らすようにしたり、長くしたりエンジンの出力いじったり、軽量化に命を掛ける奴もいた。

 チームに入ったのは先輩の誘いだった。

 ハーフの見た目で金髪にシルバーの瞳が気に入らないと小学の頃からいじめにあっていたユウトは次第にグレはじめ、小学校に行かなくなった。夜遊びを覚え、中学の先輩とバイクに乗って遊ぶようになった。高校からはバイトの方が多くなり、先輩たちのカンパもあったが自分で買った隼がめっちゃかっこいい。緑の隼を笑顔で乗って、もう後ろに乗ることもなく、毎日笑顔で走った。

 「ユウトもピアスしなよ」

 流行りで開ける人も多く、ユウトも自然とピアスの貫通式をやった。痛みもあったがこんなもんかと思った。なんか大人になった気分だ。そんなもんで大人になれるもんじゃなかったし、今思えば充分ガキだったけど、そういうことで大人になると思い込んでいた。

 実際の大人なんて仕事して、嫌なことでも歯を食いしばりながらも仕事して、汚いことにもやって、それを隠すように奇麗な家庭を持つ、もちろんそんなことをしない大人もいるけど、バ先で「ねぇ、このあと残業しない」「夜勤しない」と誘われたこともあった。

 ビジュの良いユウトは断った。

 バイトの夜勤と残業は禁止だ。つまりラブホ行かないってことだ。夜勤は隠語で不倫だと後で気づいた。



 「君君、アイドルに興味ないかい?」

 渋谷で遊んでいた頃、そうスーツのおっさんに声を掛けられた。若くチャラそうで、ホストのスカウトかと思った。

 「俺16すよ」

 「あ、ホストじゃなくてアイドル。僕こういうものでアイドルになってくれる子を探しているんだ」

 そこには有名事務所RNDって書いてあった。

 「はぁ、こんな名刺いくらでも印刷できるんですよね」

 「あはは、疑り深いな」

 金握らせて俺とヤリたがる女もいたからな。

 男は名刺のQRコードで事務所のHPに行けることを伝えた。

 「事務所も渋谷にあるから、よかったら見学に来ない?」

 「………いや、いいっす」

 「わかった」



 「わるい遅くなった」

 ユウトは待ち合わせしていた友達と合流した。

 「くそにしては長かったな」

 「スカウト受けていた」

 「は? ホスの?」

 『ここ銀座だっけ?』

 「いやいや、ホスなら歌舞伎やろ」

 友達が茶化す。

 「アイドルのスカウト」

 そう言って貰った名刺を渡した。

 「は? RNDなんて有名どこじゃん? もったいなー」

 「何これまじな事務所なの?」

 「お前知らないでスカウトの話聞いてたのかよ。有名だぜ」

 「アイドル知らんし」

 「まぁ、男でアイドル知っとる奴おらんもんな」

 っていうかここのメンツ、そういうジャンルわかんねー奴ばっかだ。昼からバイク乗っている奴らでテレビなんか持ってない奴らの集団だ。ゲーセン行ってもリズムゲームやるか映画行っても流行りの邦画ぐらいしか見ない。男で恋愛ものは見たくないしな。カラオケでも好きなバンド歌うぐらいで、アニメ主題歌なんて1ミリも知らない。ちなみにラッパーのtaceかAK69がよく歌われる。俺はワンオクがすきだけど、ひとりの時はamazarashiのひろを歌うこともある。

 「受けてみたら?」

 「はッ?」

 「いやいや、人生は運試しだぜ? 楽しもうぜ」

 「………まぁ、行くか」



 事務所は奇麗だった。てか広!! ビルまるまる自社ビルかよ! みずほ本社だって確か複合ビルだぜ?

 受付のお姉さんに約束していることを伝えた。アポイントってやつ?

 受付のお姉さんは内線で中村さんに繋ぐ。

 「こちらで少々お待ちください」

 「うっす」

 めっちゃ舐めた態度の俺だったと今思う。スーツすら着てないし、てかこういう場面ってスーツで良いのか?

 「いや、待ってたよ! 来てくれたんだ! 来てきて応接間用意してるよ!」

 そう言って応接間に通された。こういうのって面談室とかそう言う仕切りある空間で契約云々の話になるんじゃないのか?

 「実は契約には親御さんの承諾がいるんだけど、貰っているかな?」

 「うち、施設で母は刑務所なんです」

 「そっか、込み入った話を聞くけど、虐待かネグレクトだった?」

 「虐待はなかったす、ただ児相はガキがガッコ行かないのはネグレクトに近いって、でも、金貰ってたし、俺自身そうじゃないっつたんすけど聞いてもらえなくて、結局、結婚詐欺で捕まったらしいです」

 「………ユウトくん、児童相談所の言い分も正しいと思う。ユウト君が学校行かなくなったことは君の選択だし、僕もそういう時期あったからその選択は間違ってないとは思う。けど、子供にお金だけ渡して、男と結婚するのは立派な虐待だ。お母さんが刑務所に行ったのは残念だけど、君は自分の人生を歩むべきだ」

 「………」

 別に親を怨むことはない。あの人は男が好きだ。そう言う人だから良いけど、刑務所入るのは可哀想だと思う。

 「親可哀想だって思ったね。でも、本当に親なら学校行かないって決めた息子をほっておいて男の人と勝手に結婚して、相手の家庭を壊すような人を親と思っちゃいけないよ」

 書いてないが俺は中村さんに色々話した。

 「叔母が法定代理人なんです。その人の承諾でもいいですか?」

 「構わないよ」



 「―――だめよ、アイドルなんて」

 電話で相談したら速攻施設に来てくれた。でも、強く反対された。

 「あのね、うちの家系は男運も女運も悪くてなかなか幸せになれない家系なの。アイドルなんてみんなに愛してるって言って、自分は誰からも愛されなくて、病む子多いんだよ? ユウトもそうなっちゃうよ?」

 「いいよ」

 「え」

 「俺さ一回本気で誰かに嘘でもいいから愛されてみたいんだ。嘘でもいいから愛してるって言ってみたいんだ」

 母親にも言ったことのない、愛しているという言葉をアイドルなら仕事で言える。

 「そんなの売春と同じだよ」

 「違うよ。俺は言葉を売るんだ」

 愛に飢えている家系で愛を売る商売。なんか良い。

 「破滅するかもしれないよ? このままバイクメカニックになった方がユウトの為だと思うけどな」

 「高校はやめるよ」

 「卒業まで続けなさい! 絶対後悔するから」

 「……彩芽さんは俺の事好きだよね? なんで?」

 「あ、姉の子供だからね」

 言い寄る俺に彩芽さんはたじろぐ。女はちょろい。ビジュがいい俺は彩芽さんにキスをする。とろけた顔でキスをされる彩芽さん。舌を入れると彩芽さんの吐息が口の中に入る。

 「……まったく止めなさい!」

 叩かれた。

 「―――たく、エロガキになったわね。いい? 私は叔母である前にあんたの親代わりなんだよ? 色仕掛けで落ちるような安い女と思われちゃ困るわね」

 「………俺さ、初めてぶたれたよ」

 「姉はあんたの顔好きだったからね。昔の男に似てるって」

 「つくづく女だったね。俺の親は」

 「ええ、母親になれない女よ」

 俺は彩芽さんに土下座した。

 「彩芽さん! 俺アイドルになりたいです! 誰かを愛したことないけど、誰かを好きになりたい。誰かを幸せにしたいんです! それで俺が幸せになるのか分からないけど、チーム以外で何かをしたいって初めて思えて、最後までやり遂げたい。だから! サインしてください!」

 承諾書を彩芽さんに差し出した。

 その承諾書は彩芽さんに強引に取られた。破られると思った。だけど彩芽さんはサインとハンコを捺して俺に見せた。

 「子供のやりたい事を阻む親はいないわ。良いわやりなさい。ただし途中で放り出したら承知しないよ!」

 「うっす!」



 「いやあ、入ってくれて嬉しいよ。知っての通りうちは600人のアイドルを育成しているメンズアイドル事務所だよ。メンズアイドル事務所では業界トップでデビュー前の育成中のアイドルはマネージャー業務も先輩マネージャーのサポートされながら業務するから、社員としても契約できるんだ。給料も出るからほかのアイドル事務所みたいに食っていけないから副業するってこともない。君はアイドルとしてすぐに出るからこの業務は経験できないけど、受ける立場として仕事を見ててほしい、絶対将来にプラスになるから。そして、ここがスタジオだよ。みんな新しい子が来たよ」

 レッスンスタジオでは6人のアイドルがいた。

 部活の練習みたいにストレッチしていたアイドルたちは中村さんが来ると一斉に集合した。

 「「「お疲れ様でーす」」」

 笑顔でそう言う。めっちゃビジュがいい。

 「今日からアリス協奏楽団に入るユウトだよ。さ、あいさつして」

 「ユウトです! よろしくお願いします!」

 「「「よろしくお願いします!」」」

 「趣味は?」

 中村さんが言う。

 「バイク弄りっす」

 「おお、何乗ってるの?」

 「隼っす」

 「いいね、かっこいい。あ、敬語ね」

 「はい」

 静かな圧を感じた。

 「じゃあ、紹介するね。紫のリーダーハヤト」

 「ハヤトです、歳は25、最年長だよ。趣味はツーリング、ユウトも一緒に行こうね」

 「赤のハートのアリス」

 「アリスだよ、男の娘してます」

 「え、男!? めっちゃ可愛い」

 「何ってるの、アリスが可愛いの当たり前だよ」

 めっちゃ自己肯定高! 面白いなアイドル。

 「ピンクのハイリ」

 「ハイリです、よろしく」

 長髪のハイリはピンク髪で一番声が低かった。

 「水色の優華」

 「優華です、趣味はピアス開けです」

 優華はリミックス楽曲の多いマイキと同じ系統の顔でタトゥーが似合うように手首に灰色の天使の翼を入れていた。

 「緑のなつき」

 「なつきです、みんなの恋人してます」

 そういうように一番かわいい見た目だった。アリスは女の子のような可愛さだけど、なつきは男の子の可愛さだった。

 「灰色の綾香」

 「綾香です、趣味はメイクです」

 綾香はイケメン女子みたいな見た目だったが、ホストでもしていそうだった。

 「7人目のユウトは青色ね。地雷系で売ろうと思うんだ」

 中村さんにそう言われた。

 「うっす、あ、はい。ん? 地雷?」

 頭が追い付かない。

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