幼馴染が因習村の生贄になった話
名瀬口にぼし
第1話 幼馴染が因習村の生贄になった話(1)
俺には幼馴染の女の子がいた。
「いた」ということは、今はいないということだ。
彼女がまだ生きていたころの夏休み半ばの登校日の帰り道を、俺は人生のどの瞬間よりも鮮明に覚えている。
その日、たまたま何かの用事があって学校に残っていた俺と彼女は、二人で通学路を自転車を引いて歩いていた。
「なんか、二人で下校するのって久々だね」
隣にいる俺に視線を向けることはなく、単にただ自転車のかごの先にある道路の方を見て、彼女は他愛のない微笑みを浮かべる。
校則通りに長い黒髪をゴムで結び、夏仕様の半袖のセーラー服を着た彼女の若干鼻が低い横顔は、少なくとも俺にとってはタイムラインに流れてくるどのアイドルよりも可愛くて、他の男子からの評価も悪くないことが誇らしくもあり嫌でもあった。
「中学に入ってからは、部活があったからな」
必死で彼女を横目で追っていることがばれないように、俺は平静を装って話を合わせた。
俺と彼女は通学路が途中までは一緒の場所に住んでおり、小学生のころはよく二人で帰ったものだが、中学に進学して終わる時間が別々の部活を選んでからは、気づけば自然と接点が減っている。
「ど田舎だけど夏は過ごしやすいし、やっぱりうちの村は景色が綺麗なところだよね」
やわらかく透き通った声で、彼女はあまり前後が繋がっていない会話を紡いだ。
素直で純朴な彼女は、自分の住んでいる土地への愛着を隠さない。
実際、異常気象で地球全体の気温が高すぎると天気予報の動画で言われていても、森深い山奥の僻村に住む俺たちの行動範囲の大半は、眩しすぎる太陽を遮って揺れる木陰に覆われた林道で結ばれているので暑さはましである。
また村の中心を横切る渓流の水も冷たく澄んで美しく、せせらぎの音を聞きながら見上げる群青の空の色に吸い込まれるように目を奪われる経験は、無感動な性分の俺でも覚えがあった。
だが俺にはこの村が良い場所であると、決して認められない理由がある。
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