第18話絡まる恋情。舞う、癒しの花吹雪
マジックインフィニティ最終決戦までの2日間。俺はリファの病室に通っていた。
「…今日も目、覚めないか…」
回復魔法で致命傷は逃れたものの、それだけの傷を回復させるにはエネルギーが必要だ。
熱も出てるみたいだし、苦しそうだな…ほんとマジ、キース許せん
刈り上げの白い短髪に、何を考えているか分からない、どこまでも漆黒のが続く瞳。
キースが使うのは、鉛魔法。
人差し指と親指で銃口の形を作り、指先から高速の鉛玉を放つ。
最強にして最凶の潜在魔法だ。
「ッ〜」
考えたら胃が痛くなってきたぁああっ…なんかあの時はノリで、4番手で…とかキメちゃったけど、やっぱりキースと戦うなんて怖すぎる!!
「最初ヤバいやつだから絶対ナイと思ってたけど、過去を知って、だんだん変わっていくキースに母性産まれた」
「可哀想な子。可愛い子。私が産んだ」
と、癖の強いファンが多いキース。だが初期のマジックインフィニティ最終戦時では血も涙もない。
必ず全力で魔法を使ってくるだろう。
「うぅ…無理…帰りたい」
キリキリ痛む胃を抑え、保健室を後にする。
「あら、ここにいましたの」
「の、ノエル!…さん!何か御用ですか?」
「ええそうよ。アナタ、
おおっ、ノエルとの恋愛イベント発生?!
「勿論!どこへでもお供します!」
胃の痛みが、推しからのお誘いで吹っ飛んだ。
◾︎◾︎◾︎
「はっ…の、ノエルさん、まさかこれは…ッ」
ノエルに連れていかれたのは、ノエルの寮部屋。クローゼット横に配置されている白い扉の向こうに行くらしい。
「えぇ。魔法道具、ワープドア。
つまりど○でもドアである。
「えぇ〜幻のアイテムじゃないですか?!」
「最近外国の迷宮発掘が盛んで、貴族の間で流行っておりますの。まぁ、入手は困難で、アナタのような庶民には一生お目にかかれない魔法道具でしょうけど」
白い扇を広げ、高らかに笑うノエル。
あ〜久しぶりの悪役令嬢ムーヴ。元気に出るわァ…
「付き合ってもらうって…もしかしてこのドアの先ですか?」
「えぇ。どこへ行くか、その目で確かめてご覧なさい」
ノエルがドアノブを回すと、色や柄の変わるワープドア。花柄になった所で、その先へ───
ガチャ
「う……わぁぁ…」
目の前に広がる、あたり一面の花畑。ピンク、黄色、水色、薄紫。パステルカラーの花々が咲き誇り、そよ風に靡いて揺れている。
なんて美しく、心洗われる場所なんだろう。
「す、凄い…すごいよノエル!花畑が…はっ、の、ノエルさん!」
「ノエル」
「え?」
「ノエルでいいですわ。下手くそに"さん"付けされると、聞き心地が悪いから」
扇で口元を隠し、桃色の髪を耳にかける仕草。
トクン、トクン
俺の胸が激しく脈打ち、顔全体に熱が伝播する。
あぁ、俺、ノエルのこと好きだ。
この世界に肉体として転生したからか、俺の胸に芽生えたのは「推し」以上の感情。
「へへ…ノエル」
「気色の悪い笑顔に戻りましたわね…
ここは…
そうなの?!ノエルの母親とか、ゲームには出てこなかったぞ?!
「お母様は地主であるお父様に見初められ、貴族階級入りを果たしましたので、
優しく美しく…朗らかで強い。
の、ノエルのアイリスへの意地悪ってそこからきてるの?!単に攻略対象への嫉妬だけじゃないんだ…え、激エモすぎねぇ…???
「アナタの登録潜在魔法がお母様と同じなのを見てキツく当たってしまって…悪かったわ」
「そ、そんなっ」
「貴族だの庶民だの……
「そんなことない!」
「!」
「ノエルの魔法は人から与えられたものじゃない!ノエルのたゆまぬ努力が勝ち取ったもので…それに…ケルベロスから私のことを助けてくれた!
超美しい内面にきまってる!」
「っ!…な、生意気ですわ…い、言っておきますが、アナタを認めたわけじゃありませんことよ!育ちが庶民なのは変わりないのですからね!」
真っ赤で、意地っ張りなご令嬢様。
「コホン…そ、それで、どうですの?我がイーリッヒ家の有する美しい花畑は?」
「うんっ、最高!!リファが傷ついて落ち込んでたし最終決戦で皆の足引っ張らないか不安だったけど、すっごく元気出た!ありがとう。ノエル!」
「!…ただの気まぐれですわ。思い上がらないでくださる?」
白い扇で口元を隠し目を伏せるノエル。その頬は僅かに赤らみ、美しさの隅に垣間見える可愛らしさ。
ドクドクと跳ねる鼓動はもう抑えがききそうにない。
「の、ノエル!」
俺は思わず扇を持つ彼女の手を取る。
ノエルは目を見開き桃色のリップを半開きに。
「あ…そ、その…ま、マジックインフィニティ、絶対優勝しようね!」
「?…えぇ、何を当たり前なことを。当然ですわ」
形のいい唇を上げ、不敵に微笑むノエル。
あぁ、もう、好きッ!
「え…」
ノエルの手を引き寄せ、少し背伸び。本能のままに唇を重ねる。
ちゅ…と触れ合うノエルと「アイリス」の唇。
ザァッ
吹き上がった花弁達が俺たち2人の体を撫でた。
安藤優希、推しとキスをしてしまいました───
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