怪しい求人に応募したら国民的アイドルと同棲するバイトだった
セセラギ
第1話 謎の求人と同棲バイト
「……え、これ、本当にバイトの募集か……? 高額だけど……怪しすぎる」
スマホの画面を見つめたまま、思わず固まってしまっていた。
『【急募】一都三県在住の学生限定/高収入住み込みバイト/家賃食費光熱費すべて無料/守秘義務あり/即日勤務OK』
『生活空間の管理・簡単な家事・送迎補助(運転免許証不問)』
『月給:35万円~』
「……どう考えてもまともじゃないよなぁ……これ」
深夜0時。コンビニの休憩室で俺はスマホを見つめながら苦笑いした。
このところ生活費がカツカツで、バイトのシフトを増やしても追いつかない。もちろん遊びやギャンブルなどで浪費しているわけではない。
親元を離れ学費や生活費をすべて支払っているため、その負担は重くのしかかってくる。
親と不仲なわけではないが、地元の大学を望んでいた親の意見を振り切り、迷惑はかけないからと単身都会にやってきているので甘えるわけにはいかないという、半ば意地のようなものだ。
そんなとき、この“謎の求人”が目に飛び込んできたのだ。
「月給35万……ホントだったらかなり暮らしに余裕ができるけど……犯罪に加担する系のバイトの可能性もあるよな。まさか、住み込みという名の監禁だったりして……」
迷いながらもとりあえず個人情報を入力していく。そしてあとは応募ボタンを押すだけになった。
「どうするべきか……応募してヤバそうならすぐ逃げれば大丈夫だろうか……いや、しかし……」
「ごめーん、山森君! 休憩中申し訳ないんだけど少しだけ手伝ってー!」
「あ、了解ですー」
突如店長から話しかけられたことに動揺し思わず応募ボタンを押してしまった。
「あ、やば、押しちゃった」
「ん? 何かあった?」
「いえ、何でもないです」
もう押してしまったものは仕方がないと割り切ることにした。
何はともあれ条件の良い仕事だから競争率は高いだろう、事前審査できっと落とされるはずだなどと思いながらもバイトをしているうちに応募したこと自体半分忘れかけていた。
しかし、夜勤のバイトも終わり、一息いれながらスマホを起動すると、“面接のお知らせ”と記載されているメールが届いておりその場で固まってしまうこととなった。
翌日の昼。
指定されたオフィスビルの一室に入ると、スーツ姿の男性が立っていた。40歳前後くらいだと思うが見た目は若く見える。爽やかな印象で安心する。
嬉しさ半分怖さ半分だったが、興味はあったのでメールに返信し、面接をお願いすることにした。
「山森翔真(やまもりしょうま)さんですね。本日はお越し頂きありがとうございます」
「は、はい」
男は名刺を差し出した。
受け取るとそこには セインライトプロダクションと書かれている。
「私は水島と申します。当社は芸能マネジメント事務所です。今回の募集は……ちょっと特殊でして……」
「なるほど……芸能事務所でしたか……良かったです」
「良かった……ですか?」
「あ、いえ、こちらの話しです。すみません」
「あー、もっと怪しいようなものをご想像されてたのですね。一応は真っ当な仕事なので安心して下さい」
水島は俺の表情から察したらしい。
「では詳細をご説明しますのでこちらの椅子へどうぞ」
応接の立派な椅子に座ると、水島は真面目な顔で説明を始めた。
「弊社所属のタレントのひとりが、現在自宅療養を兼ねた活動調整期間に入っていましてね。特に病気とかではなく……疲労ですかね。活動休止ではないので世間には公表してないですが、現在かなり仕事は選んでいます。そんな状態なのでなるべく寄り添ってあげたいのですが、他にも多くのタレントをかかえているためスケジュールの関係上、事務所スタッフが見てあげることがほとんどできないのです」
「まあ、それはそうですよね」
「そのため、本人の安全管理と生活サポートのために“極秘の住み込みスタッフ”を募集していたというわけです」
「それであの求人だったのですね。納得しました」
理由を聞けばそのとおりだと思うが、あの求人の書き方はやはり良くはないよなと改めて思う。
そんな俺の思いとは関係なく水島は淡々と続けた。
「もちろん、この件は外部には一切公表できません。芸能人と同居するなど、万が一でも外に漏れればスキャンダルですからね。あなたには守秘義務契約を結んでいただきます」
テーブルに置かれたのは分厚い契約書。
“情報の口外禁止” “写真・録音・SNS投稿の禁止”などの文字がずらりと並んでいた。
「違反した場合は高額な罰金が発生します。ですが、契約内容を守っていただければ、住居費は全額無料。食費・光熱費も当然無料。さらにバイト代は最低月35万円で働きによってはどんどん加算していきます」
「……本気なんですか?」
「ええ。こちらも遊びでやっているわけではありません。対象のタレントは、今業界でもっとも注目されている人物ですからね」
その時、俺の頭の中に“ある名前”がよぎった。
最近どこに行っても見かける――あの歌姫。
「スキャンダルってことは……女性タレント……?」
「そうですね」
「えーと、もしかして……そのタレントって影……」
「はい。 影宮アリナ(かげみやありな)です」
息が止まった。
テレビでもネットでも見ない日はない、トップアイドルの名前が、現実に目の前の人物から告げられたのだ。
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