放課後チート同盟
本を書く社畜
第1話:冴えない俺と、世界のバグ(不具合)
1.俺の立ち位置と、世界の違和感
俺の名前は、佐倉 悠斗(さくら ゆうと)。県立桜ヶ丘高校に通う、ごく普通の、いや、普通よりも少し**「影が薄い」**高校二年生だ。
クラスでの俺の存在感は、学級委員長が配るプリントの束に紛れても気づかれないレベル。趣味は、誰もいない放課後の教室で、窓の外を眺めながら、この世界が何かの巨大なシミュレーションなのではないかと妄想すること。
そんな俺が、他の人間と決定的に違うことが一つだけある。
—―俺には、「世界の不具合」が見える。
初めてそれを見たのは、去年の秋だった。ゲームをしていたスマホの画面が突然フリーズし、その直後、視界の隅に青い半透明のウィンドウが表示されたのだ。
【SYSTEM ERROR: File Not Found 404】
まるでゲームのバグか、OSのクラッシュ通知のようだった。慌てて目を擦っても、それは消えない。そして、そのウィンドウが表示されている間、街の看板の文字が一時的に全て意味不明な記号に変わっていた。
最初は疲労や病気かと思ったが、それ以来、不具合は不定期に、規模を増して現れ始めた。
電車の遅延、ATMの故障、自動販売機からお釣りが大量に出てくる怪現象。全て、その直前に俺の視界に**【World System Error】**の警告が表示されているのだ。
「…まぁ、俺以外には誰も見てないし、どうすることもできない」
俺はいつも通り、その「不具合」を無視することにした。だって、俺はただの高校生だ。世界のバグなんて、修正できるわけがない。
2.図書室の静寂と、臨界点
金曜日の放課後。賑やかな教室を抜け出し、俺はいつもの避難場所、図書室の窓際の席にいた。
今日も一日、誰とも目を合わせることなく乗り切った。これで週末は、心置きなく積みゲーを崩せる。
窓の外は、夕焼けが差し込み、校庭の隅をオレンジ色に染めている。この平和な日常こそが、俺が守りたい「世界」だ。
愛読しているラノベのページをめくろうとした、その時だった。
ゴオォォォ…
窓の外から、妙な**「音」が聞こえた。いや、音というより、世界全体が発する低周波の「振動」**に近い。それは、ゲームが強制終了する直前の、CPUが悲鳴を上げるような音だった。
そして、俺の視界の中央に、巨大な警告ウィンドウが出現した。
【ALERT: World System Error 001 - Critical Bug Detected】
【エラー種別:Temporal Decoupling(時間分離)】
【影響範囲:Local/High School】
まずい。今までの「不具合」とはレベルが違う。
その瞬間、世界が静止した。
図書室で本を読んでいた数人の生徒、居眠りをしていた司書の先生、窓から差し込む夕日の光。全てが、まるで高性能なカメラで一瞬を切り取られたかのように、動きを止めた。
生徒のめくりかけのページ、先生の口から漏れる小さな寝息の音すらも、途中で凍り付いている。
俺だけが動けた。心臓がドクドクと警鐘を鳴らす。
「…マジかよ。時間停止…?」
SFでしかありえない状況に、俺は立ち尽くすしかなかった。このバグ、どうすればいいんだ?
【Warning: Bug Activity Level Rising】
警告ウィンドウが赤く点滅する。
このままでは、時間が停止したまま、元に戻らなくなるのではないか?
<h4>3.氷の女王と、チートな勧誘</h4>
「佐倉 悠斗。あなたも、それが見えているのね?」
背後から、凍てつくように冷たい声がした。
驚いて振り返る。
図書室の入口に、一人の少女が立っていた。彼女は、柊木 咲耶(ひいらぎ さくや)。
学園の生徒なら誰もが知る存在。『氷の女王』と渾名される、成績優秀、容姿端麗、しかし誰にも心を開かない孤高の美少女だ。
時間停止の影響を一切受けていない。彼女も、俺と同じように動けている。
咲耶は、時間停止によって停止した他の生徒たちの間を縫うように、一切の動揺も見せず、ゆっくりと俺に歩み寄ってくる。
普段は無関心を装った彼女の瞳。それが今、鋭いエメラルドグリーンの光を宿し、俺が視線の先に捉えている警告ウィンドウを、正確に捉えていた。
「…え、あ、はい。柊木さんにも、これ…『世界の不具合』が見えているんですか?」
俺が絞り出した質問に、咲耶は静かに頷いた。
「私たちのような人間は、稀に存在する。この世界の『修正者(フィクサー)』の候補よ。そして、佐倉悠斗」
咲耶は、俺の顔を覗き込むように近づき、その完璧な美貌が数センチの距離になった。緊張で呼吸が詰まる。
「あなたこそが、私たちにとって最も重要な存在。**『バグの検知者(デバッガー)』**だわ」
デバッガー?ゲーム用語かよ。
「あなたが、この世界で最初に『不具合』を見つけられる。それを私たちに教えてくれれば、私たちはその『バグ』を修正できる」
咲耶は、停止した世界の中心で、冷たい微笑みを浮かべた。その笑顔は、氷のようでいて、同時に、獲物を見定めた捕食者のようだった。
「佐倉悠斗。冴えない陰キャのあなたは、今日からこの世界の裏側で暗躍する**『放課後チート同盟』**のブレインよ」
「私たちの**『放課後チート同盟』**へようこそ」
時間停止が解除され、世界が一瞬にして動き出す。
誰も、今の出来事に気づいていない。ただ、夕日が少し傾いたことだけが、時間が経過した証拠だった。
俺の胸ポケットには、いつの間にか、彼女に渡された小さなメモが入っていた。
[裏世界の部室:旧放送室。放課後、待ってる。 —柊木咲耶]
こうして、冴えない陰キャ高校生と、美少女異能者たちによる、**「世界を裏で救う」**放課後の日常が、唐突に始まったのだった。
—―第1話 完—―
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