第6話 片目の王子と十歳の姫、信頼の始まり
王妃リリスはすぐに執事に目配せして、動きが止まってしまったアルフレードを別室に案内した。
雰囲気の凍った会場に対して何事もなかったかのように宴の再会を促す。
そんな王妃リリスの対応に、反応したのはヴィオラだった。
先ほど酔ったふりをしてアルフレードの眼帯の下を晒したことでご満悦に微笑んでいる侯爵レオン。
周囲と先ほどのことを談笑している。
そして、それを笑っている取り巻きたち。
「化け物!」
わざとみんなの前でそう言ったのもこの男だ!
ヴィオラの心に怒りが渦巻く。
アルフレード様だけではない
王家も馬鹿にされたのだ。
将来の王は化け物だと。
お母様はなんで、その場を治めようとするの?
なんで誰も怒らないの?
ヴィオラは息を吐く。
ぎゅっと扇子が軋むほど握りしめる
「レオン様」
ヴィオラは前を向きぐっと姿勢を伸ばした。
私はこの国の姫だ
「セバスティアン王が私のために私の夫になる人を選んでくださったのにその方をこの場で貶めたこと。
国同士が決めた大切な婚約者を私の宴で傷つけたこと。
私がオリヴィアンの姫である限り、この恥辱は決して忘れませんから」
シーンと再び会場が凍りつく
この男がそうしたのだ。
ヴィオラの心に火がつく
10歳の姫に過ぎない。
だが、この国には子は一人。
将来を握るその姫を怒らせたのだ。
わざと目の前で宣言する。
私の夫がアルフレード様だろうとそうでなかろうとお前を生涯許さないとみんなの目の前で伝える。
「あ...これは失礼を...」
レオンは焦る。
そして、先ほどアルフレードを笑っていたレオンの取り巻きの貴族たちも表情が硬くなる。
この宴はグリモワールから来た第一王子の歓迎会であり、アルフレードとヴィオラのお披露目の場なのだ。
その場を台無しにした。
悪ふざけし過ぎたか...
みんなシーンとなる。
ふいっとレオンに背を向ける。
例え私の方が幼き子供であっても、私は姫だ。
そう背中が伝えている
(姫が男児であったなら...)
そう思わせる王の資質があった。
リリスが急いでその場をとりなそうとする。
しかし、そのとりなしを無視し、そのままアルフレードの後を追い、ヴィオラは宴の会場から飛び出ていく。
「アルフレード様が心配だわ」
この国も、この家のみんなが誰も彼を守ろうとしない。
彼が何をしたの?
一生懸命、私にも丁寧に話してくださったわ
別室に下がったが、この家のものが、まだ何か嫌がらせをするかもしれない。守らなきゃ!
ヴィオラがアルフレードの部屋をノックすると、アルフレードは少し暗い表情で、疲れたように微笑んでいた。
「ヴィオラ姫、先程はすいません。嫌な思いをさせてしまいました」
その姿を見て胸がぎゅっと締め付けられる。
私の旦那様になる人なのに、守ってあげられなかった。
「何を言っておられるのですか!謝るのはこちらの方です。ごめんなさい。お顔のことは触れられたくないことだったのに、私はすぐに対応できませんでした。」
アルフレードのあまりの穏やかさに、ヴィオラ姫は先ほどのレオンへの怒りを忘れてしまいそうになる。
でも、私の反応やこのパーティーにきた人たちが彼を傷つけたのに!!
「ヴィオラ姫はまだ十歳です。ましてや、こんな醜い肌を見て叫ばれなかっただけすごいことですよ」
アルフレードは、微笑みも姿勢も先ほどの会場の中にいた時と同じで崩さない。
私ははわかってしまった。
とても優しい。穏やかに私とも、接してくれる。
(でも、この方は私にも決して心を開いていない。)
当然だと思った。
今、この国でアルフレードが置かれている環境は、私のお婿さんという名目だけど、少しでも隙を見せたら殺されてしまう人質という現実だ。
「私、し、信じてもらえるまで頑張りますから。この国に来ていただいたのだから、あなたを必ず守ります。」
私だけでも...あなたの味方でいたい。
ヴィオラは、目に涙を溜めてアルフレードを見つめた。
アルフレードは少しの間きょとんとして、
「とても嬉しい言葉ですが、それは俺があなたにいうセリフだと思います」
そう言って、先ほどの微笑みではなく破顔した。
そして、笑顔で続ける。
「信用しています。先ほども来賓の方の紹介で、私の手助けをしてくださったじゃないですか。正直、事前の情報がないので助かりました」
「あ、あんなの。今度はもっと細かいプロフィールで、どこのどいつがどれだけ嫌なやつかもしっかり書いたものをお知らせします」
私は、ぐっと力を入れて拳を握りしめた。
そんな淑女らしくない姿を見て、アルフレードは再び穏やかな微笑みに戻す。
「お願いがあるのです。10分でいいので眠りたいです。すぐ戻らなくてはいけないので、起こしてもらってもいいですか?ヴィオラ姫を信頼してますから」
そういうと、ソファーの背に体を預けた。
どうやらかなり疲れているみたいーー
「横になった方がいいわ。」
私は、一人用の椅子に座り直す。
アルフレードは、私にお礼を言いソファーに横になると数秒で眠りに落ちてしまった。
(疲れてたんだ。当たり前よね)
アルフレードの寝顔は、私と同じ年相応の少年のものだった。
「絶対に私があなたを守るからね」
と再度心に固く誓ったのだった。
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