第31話 潜入工作

その夜————


酒吞一味が仲間になったことを祝し、宴会が催された。皆食べて飲んで騒いで、それはそれは賑やかな宴会だ。


意外だったのは、勇華がかなり乗り気になっていたこと。曰く『鬼は実直で豪快。それがあたしのもっとーだ。祭りは楽しまねーとな!』とのこと。『酒吞童子』の称号の通り、大酒飲んで誰よりも騒いでいた。彼女の意外な一面が見られたのは、正直言って嬉しかった。


しかしワタシは今、その宴会場から離れた場所にいる。というか、ここは既に村の中ではない。初めてスカルと出会った、あの開墾地区の近くだ。周りに人気は無い。さらには夜なこともあって、姿も遠くからは見えないだろう。ここなら秘密の会話をしても、バレる心配はない。


「―——それで、ミカエルさん。わざわざ私だけをここに呼びつけて、何の用だ?」


現在ワタシの目の前には、1人の人物がいる。その人物とは―——鬼の副将、桃華だ。


「いつ何時もカルメラ様の傍にいるあなたが、わざわざカルメラ様の傍を離れて私と話したいなんて、余程のことなんだろう? それも、カルメラ様には言えないような」

「察しが良いですね。その通りです。言うまでも無いとは思いますが、それでも言わせていただきます。ここでの会話の内容は他の誰にも言わないように。もちろん、あなたの姉である勇華にも、このことは話してはなりませんよ」

「心配ない。心得ているよ」

「ならば結構。ではまず、あなたに聞きたいことがあります」

「何だ?」

「アデンシア王国、という言葉に聞き覚えはありますか?」

「アデンシアか。噂には聞いたことがある。この大陸でも指折りの大国で、武勇を誇る猛者達が集う国だと」

「なるほど。他には何かありませんか? 例えば、王族については」

「王族なら1人、とにかく強いという噂を聞く者がいた」

「ひょっとして、”アデンシアの戦神” に関する噂じゃないですか?」

「そう!それだ!”戦神” の噂は東の大陸にも届いていてな。嘘か真か、子供の時点で既に、一国の軍隊とタメを張る程の実力を持っていたとか。そういえば1年程前から、強さに関する噂を聞かなくなったな。逆に、失踪したとか、死んだとか、これまでのことからは想像もつかないような噂を聞くようになったような?」

「・・・カルメラ様マスターが、その ”戦神” です」

「っ!? カルメラ様が!? ・・・なるほど。”戦神” の噂は、あながち嘘では無かったんだな。って、待てよ? 確か ”戦神” の正体は、アデンシアの第4王女だと聞いたが?」

「そうです。アデンシア王国の第4王女。それが、あの人の正体です」

「色々情報量が多くて混乱しそうだが・・・まずそもそもの話として、仮にも一国の王女がこんな所で何を? それに、”元” とはどういうことだ? 今は違うのか?」

「・・・追放されたんですよ。それも、本人には内緒で」

「???????」


桃華は、何がなんだかわからないという顔をしている。ワタシはことの経緯を、順を追って説明した。カルメラ様マスターが追放されるまでを。そして、追放されたことにカルメラ様マスターが気付かない理由を。


「まさか、アデンシアの王がそんなことを・・・娘に、何ということを!」

「父親だけではありません」

「っ!?」

カルメラ様マスターの母親である女王にいたっては、カルメラ様マスターのお命を狙ってきました」

「命を!? ―——っ!まさか、この前スカルが襲って来たのは、その女王の差し金なのか!?」

「その通りです」

「大体事情はわかった。つまりカルメラ様には、アデンシア王国という大きな敵がいるのだな。しかも現状本人はそれを知らず、おまけに知らせることもできない。と、こんな感じで合ってるか?」

「ええ。そしてカルメラ様マスターに真実をお伝えするには、アデンシアがカルメラ様マスターを裏切っているという物証が必要なのです。その物証を手に入れるため、あなたの知恵を貸してほしいのです」

「成程・・・相分かった。私の知恵で役に立つのなら、喜んで貸そう!」

「ありがとうございます」


桃華は何としてもこの作戦に引き入れたい人材だった。快く引き受けてくれて良かった。


「しかし、いくらなんでも2人だけでは無理があるだろ? 他にこのことを知る者がいた方が良くないか?」

「ご安心を。たった1人で10億の軍勢と同等の者を、作戦に引き込んでいます。スカル」

「はっ!」


我々のすぐ隣に魔法陣が出現し、黒いローブを纏った人骨が姿を現す。


「な、スカル!? よりによって、カルメラ様を狙った張本人を!?」

「彼、元々無理矢理召喚されたらしく、アデンシアの女王に対しては何の忠義も無いようです」

「ミカエル様のおっしゃる通りです。今のワタシは、カルメラ様とミカエル様の忠実な僕です」

「そ、そうか」

「スカルには、10億を超えるアンデッド眷属がいます。人手としては充分でしょう」

「確かに。だが不死系魔物アンデッドには骨だったり死体だったり、目立つだろう?」

「そこはご安心を。私の眷属達は姿を変えられますし、人間の言葉も話せます。ですから、アデンシアに潜入させて、情報を探らせることも可能となっています。それに、幽霊ホロウ系の不死系魔物アンデッドは姿を消せますからね。王城に忍び込んで内部を捜索することも可能です」

「それは凄いな!お前の眷属なら、カルメラ様が追放されたという物証に関する情報も手に入れられるかもしれないな」

「ええ、我が眷属達にお任せを」

「しかし、そうなると私の役目は?」

「あなたにはワタシと共に、スカルの眷属達が集めた情報の精査を頼みたいのです」

「成程、集まった情報の中に有益なものが無いか、私なりに探してほしいというわけか」

「そうです。ワタシ1人の目だと、見落としてしまう可能性が高いですからね。頭の回るあなたが一緒ならば安心です」

「ふふ。そう言われてしまっては、全力でやるしかないな」

「よろしくお願いしますね」

「任せろ!」


話は大体纏まった。

まず、スカルの眷属達をアデンシアに潜入させ、とにかく情報を集めさせる。その中に有用な物がないか、ワタシと桃華が精査する。あ、後で精査側にも何人か、不死系魔物アンデッドを回してもらうよう頼んでおこう。

現状はここまで。細かい作戦についても考えようかと思ったが、そろそろ戻らないと村に残した者達に心配を掛けることになる。


「今日の所はそろそろ戻りましょう」

「ええ。今日は私も、羽目を外して飲み明かしたい気分ですし」

「おまえ骸骨だろう? そもそも飲食とかできるのか?」

「もちろんですとも。眼が節穴でも周りが見えているように、喉が無くても飲食は可能です。もっとも、単なる嗜好としてですがね」

「思えば不死系魔物アンデッドって、謎だらけだよな・・・」


そんな風に話をしながら、我々は村の近くへ『転移』した。






【後書き】

本作をご覧いただきありがとうございます!


いよいよ、アデンシアへの対策も本格的に始まります!果たしてミカエルは、アデンシアにどう立ち向かっていくのか?


このお話をより良いものとするため、皆様に楽しい時間をご提供するため、皆様のご感想をいただけると幸いです。


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