第16話 魔王覚醒
【前書き】
時は、金童子撃破の少し前に
(凄いよミカエルちゃん!茨木と星熊を倒しちゃうなんて!)
〔ありがとうございます。丁度
(よろしくね!)
まったく、カイザー達は世話が焼ける。我々の力無しで村を守れるよう、力を与えて特訓させたというのに・・・結局ワタシが手を貸す羽目になってしまった。確かに特訓は3日しかできていないし、相手の力も相当な物だった。特に金童子。まさかAIでもないのに、相手の動きをトレースできる者がいるとは、考えもしなかった。とは言え、ワタシが手を出さずに倒せたのが熊童子1人だけとは・・・
ワタシが茨木と星熊を倒せていなかったら、どうなっていたことか。
〔・・・まあ、死なれるより遥かにマシですけどね〕
熊童子と虎熊童子は既に撃破され、金童子も時間の問題だろう。これで一安心だ。
(―――どうかした?)
〔いえ、何でもありません〕
今は目の前の戦いに集中しよう。まずは、酒吞童子のステータスの復習からだ。
種族:鬼
ランク:SS
称号:酒呑童子
権能:『刀神』
【神速思考・刀術強化・神力・絶対切断・精神統一・諸刃ノ剣
気配察知・攻撃予測】
ギフト:『魔王ノ資格』
【闇魔法・(未覚醒)】
種族スキル:『剛力強化』・『統率|(オーガ)』
『複製体』の報告で強いことは知っていたが、権能を持っていたことは想定外だった。加えてギフト『魔王ノ資格』。明らかに『勇者ノ資格』と対になっている。元AIとして、こういうことはあまり言いたくないが、我々が彼女と戦うのは、運命だったのかもしれない。
「まさか茨木と星熊に、止めも刺さず負けを認めさせるとは、大した奴だ。だが見た所お前の力は、ほとんどがスキル由来だな。それじゃああたしには勝てない!『獄炎刺突』!」
酒呑童子が、『終炎』を纏った『地獄門』による突き技を繰り出してくる。この『終炎』がとにかくヤバい。人体や木はもちろん、時空の壁も、スキルの付与効果すらも燃やす、防御不可の炎。火の粉1つでも食らえば、致命傷になりかねない。
〔何度見てもヒヤリとしますね・・・!〕
(本当に。でも、こうすれば!)
「オラァ!」
「はぁっ!」
再び、
(ミカエルちゃん、『蒼剣』―――じゃなかった。『赫灼幻想剣』で援護を!)
〔了解!〕
〔食らいなさい!『
『赫灼幻想剣』の大群を、雨霰の如く酒呑童子に降らせる。しかし―――
「スキルじゃ勝てないって言ったろ!『斬裂獄炎』!」
酒呑童子は『地獄門』を振りかぶり、『終炎』を纏った巨大な斬撃を飛ばす。『赫灼幻想剣』は1つ残らず砕かれ、さらには『終炎』に焼かれて塵も残らなかった。でも、問題ない。
「胴ががら空きだよ!『
「ガハっ・・・!ちぃっ、あの剣共は囮か!」
そう言って悪態をつく酒呑童子は、最初より遥かに弱っている。『超速再生』を用いても、今の斬撃による傷を治しきれていない。限界が近いのだろう。
―――もっとも、それは
(ハァ、ハァ、さすがに手強い!こんなに苦戦したの、久しぶりだよ!)
〔たった1人で大陸を滅ぼす鬼の力に、権能、ギフト、称号、そして出鱈目な力を持つ妖刀まであるのです。この強さは当然でしょう。しかも酒呑童子の刀術は、
(でも、僕達は2人。どっちかが隙を作って、どっちかが攻撃するのを繰り返せば、少し時間は掛かるかもだけど、絶対勝てる!)
〔そう、ですね・・・〕
・・・本当は、もっと早く倒す方法がある。それは『光魔法』を使用することだ。光魔法は凄まじい破壊力を持っていて、さらには
(何故
現状は問題ないため放置しているが、ずっとこのままというわけにはいかないだろう。ワタシが思考を増やして、理由について考え始めた、その時だった。
「っ!? 何だ!?」
途轍もないエネルギー同士の衝突が起きた。突然の出来事に、
〔この気配は・・・なるほど、決着ですね〕
(え?)
衝突から数刻後、今度は
〔
(合点!)
「え・・・?」
酒吞童子の動きが完全に止まる。体の動きだけでなく、思考も止まっているように見えた。恐らく、動揺しているのだろう。
〔今の内に攻撃を―――〕
(待って!)
〔―――
(お願い、待ってあげて)
酒呑童子が止まっている今こそ最大のチャンスだというのに、なぜか
「金童子!!」
茨木が真っ先に動く。木々を薙ぎ倒しても尚勢いが止まらず、さらに遠くへ飛んでいきそうな金童子をどうにか受け止める。しかし、茨木の力だけでは止め切れず、地面をガリガリと削りながら後退してしまう。
「くっ、こんのぉ・・・!」
「手ぇ貸すぜ!!」
そこに星熊も加わり、2人掛かりでどうにか金童子を受け止めた。
「金童子!しっかりしろ!」
「金童子!!」
「・・・」
茨木と星熊が呼び掛けるが、金童子は目を覚まさない。
(・・・ねぇ、あの子ってもしかして、村に攻めて来てた鬼じゃない?)
〔おっしゃる通りです。あれは、村に迫っていた鬼の1人、金童子です〕
(やっぱりか・・・)
「嘘、だろ? まさか、金童子が、死―――」
「大丈夫だ!まだ息がある!」
「コイツは俺達に任せとけ!」
茨木が金童子に回復魔法を掛け、星熊がそれをサポートする。本来は邪魔するべきだが・・・先程の
「・・・なぁ、熊童子と虎熊童子は、どこへ行った?」
ここで酒呑童子が、熊童子と虎熊童子の気配が消えていることに気付く。先程まで
「それが・・・気配が突然消えたんだ」
「・・・は?」
「さっき、時空に干渉する力の流れを感じた。恐らく2人は、こことは別の時空に連れ去られた」
「っ!!!」
「すまない・・・!咄嗟のことで、まったく反応できなかった!」
茨木が涙ながらに謝罪し、酒呑童子の顔が蒼白になる。同時に、ミシミシと空間が軋むような音が聞こえ始める。それは、酒呑童子が『地獄門』を握りしめる音だった。
「カルメラ・・・貴様ぁ!!!」
酒呑童子が声を荒げて、全力の覇気を発してくる。凄まじい怒りを感じる。覇気が禍々しくなったことが、彼女の怒りの強さを物語っている。
(・・・ミカエルちゃん。2人はどこにいるの?)
〔ワタシが作った『時空牢獄』に捕らえています。相手を生かしたまま撃破した際、そこに転送するようワタシが指示したんです〕
(じゃあ、2人は生きてるんだね?)
〔ええ、生きているのが不思議な程の重症で、暫くは目を覚まさないでしょうけど〕
(・・・わかった)
「一応言っとくけど、2人は僕達が捕らえてる」
「なら返せ・・・あたしの仲間を返せ!!」
「『返せ』だって? ゴブリン達から散々奪っておいて、自分の仲間が奪われたら返せって、虫が良すぎるんじゃない?」
「黙れ!アイツらとあたしらを同列に扱うな!アイツらは奴隷だ。どれだけ苦しもうが、何匹死のうが、あたしの知ったことか!」
「・・・っ!」
「お前を倒して、仲間は返して貰う!ハアアアアアアアアア!!!!!」
酒呑童子の魔素量が上昇し、彼女の体内を膨大なエネルギーが暴れ狂う。すると突然、彼女の気合いに呼応するかのように、ギフト『魔王ノ資格』が力を増す。
〔っ!!? まさか、これは!!〕
卵から雛が孵るかのように、『魔王ノ資格』から、何かが目覚めようと脈動を始める。間違いない。これは『覚醒』だ!酒呑童子は今、本物の魔王に進化しようとしているんだ!
(ヤバい!『魔王ノ資格』が目覚める!)
〔
(が、がって―――)
バキャ―――
卵が割れる音が聞こえた気がした。
しかし、卵から孵ったのは純真無垢な雛ではなく、怒りに震える新たな魔王だ。
〔・・・『
種族:鬼(魔王)
ランク:SS+
称号:酒呑童子
権能:『黒妖刀神』
【神速思考・刀術超強化・神力・必絶ノ太刀・精神統一・諸刃ノ剣・黒穴
気配察知・攻撃予測】
【闇魔法・民ノ希望(魔王)】
種族スキル:『剛力強化』・『統率|(オーガ)』
生まれて始めて、『
(・・・ミカエルちゃん、今のアイツの力ってどんな感じ?)
〔・・・最悪です〕
そうとしか言えない程、酒吞童子の力は上昇していた。覇気は先程までの比ではなく、魔素量は10倍以上に上昇し、スキルも大幅に強化されていた。
特に、『黒妖刀神』に統合されている『必絶ノ太刀』がヤバい。これは『絶対切断』が進化したスキルなのだが、刀以外の刃物を用いた切断が一切できなくなるのと引き換えに、刀さえ使えば次元すらも問答無用で断ち切れるという、恐ろしい性能である。そこに、防御を犠牲にして攻撃力を上昇させる『諸刃ノ剣』まで加われば、その破壊力は計り知れない。
せめてもの救いは、『魔王』への覚醒で目覚めた『民ノ希望』が、
「―――行くぞ」
「〔っ!!!〕」
酒呑童子が、冷めきった声でそう呟く。
―――と、次の瞬間、酒吞童子が目の前まで迫っていた。
(ちょ、ヤバ―――)
〔『時空跳躍』!〕
ワタシは『転送』を発動し、
(ごめん助かった!もう油断しないよ!『並列思考』!『神速思考』!)
「次は逃がさない」
言うや否や、再び酒呑童子が接近する。改めて良く見ると、跳躍の瞬間、踏み込みで大地が大きく窪んでいるのがわかる。威力は勿論、速度も先程までとは段違い。だが、次が無いのは我々も同じだ。
〔『時空跳躍』!〕
今度は、突撃してきた酒呑童子の頭上に飛ぶ。そして剣に『赫灼幻想剣』を100振り分付与し、
「〔『
現状、最大威力を誇る我々の奥義を、酒呑童子に放つ。
「舐めるなぁ!」
対する酒呑童子は、『地獄門』を頭の上に掲げ、我々の奥義を受け止める。『
「ぐぬぬ・・・!!」
しかし、これ程の一撃を諸に食らっても、酒呑童子は耐えている。彼女の反応からして、今の一撃は間違いなく効いているはずなのに・・・
〔それでも倒れない程、酒呑童子は頑丈ということですね〕
(そんな・・・固すぎるよ・・・)
いくら即興で作ったとはいえ、奥義を止められたことにショックを隠せない。だが、落ち込んでいる場合ではない。
〔これで両腕は封じました!今度こそ串刺しにしてやります!〕
酒呑童子を包囲するように『赫灼幻想剣』を展開し、同時に放つ。『終炎』の力がワタシの予想通りなら、これで仕留められるはずだが―――
「来い!『暗黒炎龍』!」
『地獄門』から噴き出す『終炎』が、突然激しさを増す。激しくなった『終炎』が形を成し、黒い炎を纏った禍々しい黒い龍となった。
「やれ!」
酒呑童子の命令を受け、黒い龍は彼女の周りを旋回する。『赫灼幻想剣』は1つ残らず砕かれ、またしても塵1つ残さず消滅してしまった。
〔くっ!まさか『終炎』が、ここまで応用の利く物だったなんて!〕
実を言うと、ワタシは『終炎』について、ほとんど何も理解できていない。『終炎』を『
〔大ハズレ、でしたね〕
どうやら『終炎』は、今のように刀から伸ばして使うことも可能らしい。しかもあの龍、『赫灼幻想剣』を一撃で破壊したことからして、恐らく『闇魔法』も付与されている。・・・いや、逆だ。『闇魔法』で産み出した龍に『終炎』を纏わせているんだ。まさかスキルを無効化してしまう『終炎』を、別のスキルに付与できるとは、考えもしなかった。
「貫け!暗黒炎龍!!」
黒い龍は『赫灼幻想剣』の破壊に留まらず、
「こんな奴、こうだ!」
「1匹倒したくらいで、いい気になるなよ?」
『地獄門』から、火山の噴火と見紛う程の『終炎』が噴き出す。それらが全て黒い龍となり、我々に迫ってきた。
「くっ!数が多すぎる!」
「はっはっはぁ!どうしたカルメラ!もう終わりか!? コイツらは幾らでも呼び出せるぞ? 加えて、あたしもいるんだ!」
「っ!!」
酒呑童子が
〔ならばこちらも!『魔纏・赫灼幻想剣』!〕
〔このままでは、間違いなく我々が負ける。何か手を打たないと・・・!〕
だが、どうすれば良いのだろう? 相手の妖刀はスキルすらも焼き付くす。その上、相手の技量は
〔『終炎』をどうにかできる武器が都合良くあるわけないし、今あるスキルをどれだけ融合しても『終炎』には通じないし・・・待てよ? 融合・・・〕
(どうしたの?)
〔いえ、融合という言葉に、引っ掛かりを覚えまして・・・〕
思えば、茨木と星熊を倒せたのは、『剣神』を中心として複数のスキルを融合し、新たなスキルを生み出せたお陰だ。スキルや魔法などの特殊な力は、複数の力を1つに融合した方が、同数の力を剣などに付与した時に比べて格段に強い力を発揮する。突破口はやはり、融合による新たな力の創造にありそうだ。
では、何を融合すれば良いのか。ここでワタシは、金童子のやっていた『情報の具現化』を思い出す。金童子は、スキルや魔法の情報を武器に付与し、その情報を
では仮に、単なる情報ではなく、スキルや魔法そのものを融合させたらどうだろう? ただの情報でさえ
〔だとしたら、
因みに
〔物は試しですね。
(それで状況を変えられるなら、早速お願い!)
〔了解!〕
―――結果、今度こそワタシの予測は当たった。『吸熱ノ盾』は
(ねえ、何か僕の剣が、凄いことになってない!?)
〔ええ。たった今、
(はぁ!?
〔他がどうかはわかりませんが、ワタシならば可能です。それと、『
(え、でも『終炎』って確か、スキルを無効化するんじゃ?)
〔魔剣を作る際判明したのですが、魔剣を初めとした魔導武具の
(・・・ほんと、凄いねミカエルちゃん)
「これで終いだぁ!!」
丁度その時、酒吞童子が『地獄門』を大きく振り上げ、我々の元へ跳躍してきた。あれで終わりにするつもりらしい。
(ようし、早速試してみよう!)
「っ!? 『終炎』に触れたのに、燃えない!? バカな!それはただの
「ふっふっふ、それがね・・・ついさっき、魔剣になったみたい!」
「戦いの最中に、魔剣に!? ふ、ふざけるなぁ!そんなことあってたまるか!」
「なっちゃったもんはしょうがないじゃん?」
「くっ・・・!だったら、これでどうだ!」
ただでさえ禍々しい『地獄門』が、さらに禍々しさを増す。『終炎』に拒まれて『
(あれは・・・無理だよね?)
〔ええ、残念ながら〕
光魔法と闇魔法は、とにかくその破壊力が脅威だ。単純な威力で言えば『絶対切断』すらも上回り、下手に使うと世界が滅びかねない。
〔ですが、問題ありません。魔剣に『光魔法』を融合すれば良いだけのことです〕
酒吞童子を『
(ね、ねぇ・・・『光魔法』じゃないと、ダメ?)
(か、『赫灼幻想剣』で良いんじゃない? ほら、あれって確か『光魔法』も融合してるんでしょ?)
〔残念ながら、
魔導武具は、無限に力を宿せるわけではない。宿せる力には限界があり、その最大値は武具の素材のエネルギー量で決まる。この限界を超えて力を宿そうとすると、武具が自壊してしまうのだ。
(じ、じゃあ『闇魔法』は? ミカエルちゃんなら、もう『闇魔法』の情報も持ってるんでしょ? なら、『闇魔法』も使えるよね? 『光魔法』じゃなくても、同じ『闇魔法』なら対抗できるんじゃない?)
〔残念ながら、それも無理です。確かに情報は入手していますが、
(そんな・・・)
「どうした? ビビッて動けなくなっちまったか?」
「〔っ!!〕」
酒呑童子が再び
「はぁっ!」
『地獄門』が、中段から切り上げるように振るわれる。
〔融合、『超速再生』!〕
ワタシは魔剣に『超速再生』を融合する。『超速再生』は即刻『神速再生』へと進化し、魔剣に融合。魔剣の傷は即座に治った。
(ありがとう、守ってくれて)
〔当然のことです。それよりも
(そ、それは―――)
「逃がさんぞぉ!」
「〔っ!!〕」
かなり飛ばされたはずなのに、もう酒吞童子が追い付いてきた。仕方ないので話は後回しにし、まずは酒呑童子に相対する。しかし、『闇魔法』を付与した『地獄門』による猛攻に、『神速再生』まで与えた魔剣をもってしても対応しきれない。
〔やはり、『光魔法』を融合しないと・・・!〕
しかし、
・・・どうやら、向き合う必要がありそうだ。「
〔『並列思考』、『神速思考』〕
ワタシは、我々2人の思考を増やし、戦いの傍らで
〔
(・・・わかった。僕が『光魔法』を避けるのはね、『光魔法』が怖いからなんだ)
〔怖い? 『光魔法』がですか? まあ確かに、凄まじい威力ではありますが―――〕
(そうじゃないよ。僕が恐れてるのは・・・『光魔法』の浄化の力だよ)
そして
【後書き】
本作をご覧いただき、誠にありがとうございます!
もう流れからおわかりだとは思いますが、次話は昔話が入ります。なるべく短く纏められるように致しますので、どうかご容赦を。
このお話をより良いものとするため、皆様に楽しい時間をご提供するため、皆様のご感想をいただけると幸いです。
(・・・『面白い!』と思ったら、高評価もお願いします)
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