第7話 修行
ワタシはアバターを動かし、
「では、始めましょう」
「オッケー!」
現在我々は、
修行の内容は、一言でいうと「『固有空間』から岩を落とす」だ。
まずは手頃な大きさの岩を用意し、それを『固有空間』に収納。次に少し高い所に、下向きに『固有空間』の入口を開き、岩を落とす。本来は岩が地面に落ちて終了だが、今回はここで岩の下に、上向きに『固有空間』の入口を開く。すると再び岩は『固有空間』へ入るのだが、この時同時に「出口」を開くと、入れた物が一切のタイムラグを挟まずそこから出てくる。入れた物に速度が与えられていた場合は、その速度もきっちり反映される。そのため出口を少し高い場所に下向きに開くと、重力によって先程より加速した状態で岩を落とせる。
では、この「岩を落としては収納する」プロセスを繰り返すとどうなるか? 答えは「岩が高熱を帯び超加速する」だ。例えるならば、隕石の落下に近い。隕石は地球に飛来する際、地球の重力によって加速しつつ、空気の摩擦によって熱を帯びる。これを人工的に再現しているのが、今の修行だ。
「ねぇ、何か岩が熱くなってない? 大丈夫なのこれ!?」
岩を落としてからしばらく経ち、岩が熱くなり始める。
「問題ありません。次はその石を、前方のあの木に向かって打ち出してみてください」
「え、えーと、えーと・・・」
マズい、
「落ち着いて!大丈夫です。ここぞと言うタイミングで、出口を目標の前にセットするだけです。『神速思考』と『並列思考』を使えば簡単にできることですよ」
「そ、そっか!よーし・・・!」
「―――ここ!」
期は満ちたとばかりに、
「・・・ミカエルちゃん」
「はい」
「今の、本当にただの岩?」
「ええ、勿論。寧ろただの岩だからこそ、この程度の破壊におさまっているのです」
「ただの岩でこれ!?」
「
「人生で1番の驚きだよ!!」
「何を驚くことがあるのです? 地形を変える程度、
昨日だって、
「それは否定できないけど・・・。でも、『固有空間』だよ? ただのリュック代わりだよ? その上使ったのはただの岩!リュックと岩でこんなことができるとか、普通は思わないよ・・・(と言うか、その発想が1番怖いよ・・・)」
「なるほど、確かにそうですね。しかし
「それは、そうかもだけど・・・そうじゃないんだよぉ・・・」
・・・いまいち
「まぁ、それは追々話そう。それよりも、何か僕に新しい力が加わった気がするんだけど、どう?」
「少々お待ちを。『
・スキル『温度上昇』
指定した対象の温度を上げる。
・スキル『加速』
指定した対象の速度を上げる。
対象が止まっていても加速させられる。
「やりました!まずは『温度上昇』と『加速』のスキルを獲得できましたね!」
「え、『熱支配』じゃないの?」
「『熱支配』は
「そ、それは確かに・・・」
「ですが、
そもそもスキルは、通常のものでさえ、獲得するにはそれなりに時間を要する。どんなに頑張っても最低一週間は必要だ。それをこんな短時間で、それも一気に2つも獲得できた
「い、いやだなぁ~、天才だなんて!」
「この調子で行けば、今日中に「材料」が揃いそうです」
「材料?」
「はい、これから
スキルが進化するというのはアランから聞いた通り。ただその方法については色々ある。今回はその1つ―――複数スキルの合成による融合進化を目指す。
「では、次に参りましょう。
「合点!」
再び
「・・・あれ、待てよ?」
「どうされました?」
「こうしたら、どうなるかな?」
再び
「な!これは一体!?」
ワタシは『
「まさか、スキルの力を真逆に発動しているのですか!?」
「さっすがミカエルちゃん!その通り!さっきミカエルちゃんがやったみたいに、見方を変えてみたんだ。温度や速度を上げることができるなら、真逆に上げる―――つまり、下げることもできるんじゃないかって」
やがて岩の温度は下がり、速度もゼロになった。そして
・スキル『温度低下』
指定した対象の温度を下げる。
・スキル『減速』
指定した対象の速度を下げる。
対象が止まっている場合は、狙いと逆方向に動き出す。
まさかこんな形で『温度低下』と『減速』を獲得するとは、最早才能がどうとかいう範疇ではない。突然の思いつきでやったことで、新たなスキルを獲得するなんて、常人にはとても真似できない。
(一本取られましたね)
とは言え、材料はまだ足りない。最後に必要な『固定』と『温度固定』のスキルは、まだ獲得できていないのだ。
「お見事です、
「最後の仕上げ? まだ何か必要なの?」
「ええ。後必要なのは『固定』と『温度固定』のスキルです。まずはまた岩を落としてください」
「え、また?」
「はい。ですが、今度は落とすのは1回だけです。そして落としたら『減速』を発動し、落下速度と同じ分だけ減速させ続けてください」
「そうするとどうなるの?」
「岩が空中で停止します。それから留めている間、『温度上昇』と『温度低下』を併用し、温度を一定に保つようにしてください」
「合点!」
すぐに新たな岩が『固有空間』から出てくる。そして岩が地面に落ちる前に『減速』が発動し、岩はその場に停止した。
「よし!次は『温度上昇』と『温度低下』!―――っと、その前に『並列思考』!」
『並列思考』で思考を2つ増やし、それぞれの思考で『温度上昇』と『温度低下』を発動する。3つの思考を用いることで、その場から微動だにせず、温度も一定で、宙に浮いた状態の岩ができた。
「よし、できた!」
「お見事です。ではその状態をキープしてください」
「む、難しそうだけど、がんばる!」
そしてしばらくの間、かなり地味な時間が過ぎる。
―――10分後
「来ました!『固定』と『温度固定』を獲得しました」
・上スキル『固定』
指定した対象をそのままの状態で固定できる。
・上スキル『温度固定』
指定した対象の温度を固定できる。
「やりましたね、
「ほんと? やったー!これで『熱支配』をゲットできる!」
「ええ、これより『熱支配』の創造を開始します。『
・『
1つの分野に特化した創造が可能。
(権能『AI』の場合はスキル特化)
ワタシは『
「『熱支配』への融合進化―――成功しました」
・
【温度支配・速度支配・純熱生成】
エネルギーを生み出し、支配するスキル。
極めればマグマの灼熱、雪山の極寒まで瞬時に産み出せる。
「よし!これで鬼達が来ても大丈夫だね!」
「いえ、まだです」
「え?」
「実は、この『熱支配』も材料なんです。『空間支配』を進化させるための」
「そうなの!?」
「はい。本当は昨日の時点で報告をするつもりだったのですが、タイミングを逃し今になってしまいました。報告が遅れたことをお詫び致します」
「それはいいけど、でも『熱支配』で進化させられるの?」
「お任せを」
再び『
「融合進化を開始―――成功しました」
「どうなったの?」
「『空間支配』が、
・
【固有時空・時空断裂・時空連結・時空跳躍
圧力支配・時流支配・素粒子操作・純熱生成】
文字通り時空を支配するスキル。
時空を素粒子レベルで把握し、自由自在に動かせる。
この『時空支配』こそ、ワタシが求めていたもの。鬼の副将が持つ空間能力に対抗できる力。
「すごい・・・!『空間支配』の時とはレベルが違う!」
「何せ1段階進化していますからね。ですが、油断は禁物です。今の我々は、唯一わかっている副将の力に対応できるようになっただけです。頭領や四天王達の力は未知数。まして副将に他の力があるとしたら―――」
「まぁまぁミカエルちゃん。ちょっと落ち着こうよ」
「え?」
「だいぶ焦ってるみたいだけど、良く考えてみて。確かに敵の力はまだわからない。でも、わからないことに怯え続けてもしょうがないよ。ここからは出たとこ勝負。そう割り切るしかないよ」
・・・ワタシとしたことが。
敵の力に恐れをなし、必要以上に焦りすぎていたようだ。そうだ、わからないものはしょうがない。大事なのは、敵の力がわかったタイミングで、どれだけ適切に対処できるかだ。
「ありがとうございます、
「緊張がほぐれたんだね」
「ええ、そんな感じです」
ワタシと
「2人とも!大変だ!さっき村にこんなものが届いた!」
それはゴブリンのリーダーだった。何やら手に封筒のようなものを持っている。
「それは!?」
「急に魔方陣が現れて、これが送り付けられた」
「ほう?」
「ってことは、間違いなく鬼達からの手紙!何が書いてあるの!?」
「それはまだ知らない。2人に一緒に読んでもらいたいんだ」
『―――果たし状
先日は部下達が世話になった。その借りを返させてもらう。
今日より3日後の早朝、地図に示した場所に1人で来い。
時間に遅れたり、2人以上で来た場合、村の連中の命は無い。
以上。
頭領・酒吞童子 より』
村のゴブリン達を人質にして、一方的に要求を押し付けるものだった。
「・・・・・・」
「っ!!」
「
「『怒って』いるのですね?」
「うん・・・!!!」
「仲間がやられて悔しいのはわかるよ。でも・・・散々恐怖と力で支配して、奴隷のようにこき使って、挙句今度は僕を呼び出すための人質にするなんて!一体鬼達は、ゴブリンを何だと思ってるんだ!!」
「カルメラ殿。気持ちは嬉しいが、これが魔物のルールだ。弱い者は、強い者に従うしかない。あいつらも俺達のことは、使い捨ての道具くらいにしか思っていないだろう」
「それはわかってるよ!わかってるけど・・・!」
「・・・それからもう1つ。
「なっ!どうして!?」
「見せしめだ」
「みせしめ??・・・何それ??」
「要は他のゴブリン達に知らしめるということです。鬼に逆らったらどうなるかを」
「他って、どういうこと?」
「鬼達に支配されているゴブリンは、俺達だけじゃない。ここら一帯は山の麓を中心に、ゴブリンの村が扇状に6つ点在しているんだが、その全てが鬼達の支配下にある。今回の一件を踏まえて、残り5つの村の連中が反抗することを警戒したのだろう」
「そこで元凶である
「・・・ふざけやがってぇ!!!」
「
「・・・・・」
・・・これは、しばらく話はできそうにない。
「リーダーさん。そちらはどうですか?」
「順調だ。皆、大分
「他の村のゴブリン達は?」
「幸いこの村以上にひどい所は無くて、どうにか全員助けられたが・・・鬼と戦うことには難色を示している」
「やはりそうですか・・・」
ワタシがゴブリン達に頼んだことの1つ。それは、『複製体』達と共に他のゴブリンの村へ趣き、彼らを救助することだ。
今のままでは、万が一鬼達の総攻撃を受けた場合、村は10分も持たない。ならばどうするか? 一番簡単なのは、こちらの頭数を増やすこと。そのために、他5つの村のゴブリン達にも協力してもらおうと考えたのだ。
他の村のゴブリン達も、程度はあれど飢餓状態になっていたが、新たに用意したスープのお陰で彼らを救うことはできた。しかし、鬼と戦うことにはどうしても抵抗があるらしい。
「ただ、カルメラ殿には興味があるみたいでな、それぞれの村の長達が村に来てくれてるんだ。カルメラ殿とミカエル殿の力を見れば、考え直してくれるかもしれない」
「状況はわかりました。気が変わるかはともかく、1度会って話してみましょう。
「・・・大丈夫、聞こえてた。取り乱してごめん」
「問題ありません。とりあえず、一旦村に戻りましょう」
「そうだね」
こうして我々は、5つの村の長達と話をするため、1度村まで戻ることとなった。
【後書き】
本作をご覧いただき、誠にありがとうございます!
このお話をより良いものとするため、皆様に楽しい時間をご提供するため、皆様のご感想をいただけると幸いです。
(・・・『面白い!』と思ったら、高評価もお願いします)
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