終幕

 結局、それから最後まで、ぼくたちはほとんど言葉を交わさなかった。


 その日の夕方ごろ、瑠音はひとりで外出した。


 ぼくは少し気になったが、強いて行き先を確かめたりはしなかった。夕食前に帰ってきた瑠音の様子にも別段、おかしなところは見られなかった。


 翌日、朝食を終えてひとり寝室で過ごしていたぼくのもとに、瑠音がやってきた。


「いまから〈スイミー〉号を出すけど、遼も来る?」


 瑠音の口調は穏やかだったが、ぼくはまだ気まずさを感じていた。


「……いや。今日は遠慮しとくよ。瑠音ひとりで行ってきたらいい」

「そう……じゃあまた、お昼にね」


 彼女が立ち去ったあと、ぼくはなんとなく窓辺に立った。


 朝の海原は鮮烈に光り輝き、目に痛いほどだった。


 やがて眼下の桟橋に瑠音が姿を見せ、係留されている〈スイミー〉号に乗り込んだ。


 舫いが解かれ、かすかなエンジン音とともにボートが桟橋を離れる。


 沖に向かって徐々に小さくなっていく白い船体を、ぼくはじっと眺める。


 広大な海原のただ中で、その影はひどく心細げに見えた。


 終わりの瞬間は、呆気なく訪れた。


 まるで、海の上に星が落ちてきたみたいだった。


 音と煙。


 深い碧に沈みゆく、ちっぽけな影。


 そして、栖谷瑠音はこの世界から姿を消した。

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