オメガ−の意図せぬ下克上

弥生いつか

出会い

1


「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ…」

「先生…これは…」

「ああ…」


 僕は頭に狼の耳とお尻に狼の尻尾が生えて生まれてきた。




☓☓☓




 人間には男女、更にアルファ、ベータ、オメガの六種類に性別が別れていると知ったのは、幼い頃からだった。生まれた時のバースを調べる検査で僕のバースがオメガだと判明し、学校ではバース別授業でオメガに分類され、オメガという性別を学ぶ事になった。


 そして中学3年の現在、何度も繰り返されてきた説明に僕は飽き飽きとしていた。


「ーーー人口の1割がオメガであり、男性の直腸の奥に生殖器が存在します。身体が成熟し第二期成長期を終えた頃に、ヒートと呼ばれる発情期が3ヶ月に一度訪れる様になります。ヒートが訪れた際は慌てず騒がず、配られた抑制剤を飲む様にしましょう」


 小さい頃から繰り返し聞かされた内容を説明されて、眠くなってくる。大きく欠伸をすると「百川ももかわ君!」と名指しで呼ばれてしまった。


「他人事の様な顔をしているけど、あなたは特に注意が必要何ですよ!」

「わ、分かってまーす」


 先生に怒られて耳と尻尾を垂れされる。クゥンと喉から声が漏れた。


「せんせー、でも本当に居るんですか?百川の“オメガ−”と番になれる“アルファ+”なんて」


 “オメガ−”、オメガの中で一万人に1人生まれるか、生まれないかの希少種だ。オメガ−は基本的に発情期は訪れても妊娠はしない。オメガ−は“アルファ+”と呼ばれる同じ希少種のアルファの種しか、後世に残す事が出来ないのだ。


 オメガ−とアルファ+は天の神様が番を見つけやすい為にか、生まれながらに狼の耳と尻尾を生まれ持っている。だから生まれた時から狼の耳と尻尾が生えていた僕は、生まれてすぐにバース性検査が行われてオメガと分類された。


「アルファ+は優秀な個体であると同時に、オメガ−としか子孫を残せません。なので高校卒業後はオメガ−はお見合いしてーーー」

「そうじゃなくって、百川とお見合いしたがるアルファ+なんて現れるんですかって話」


 生徒のその発言にクラス中で笑いが起こる。確かに成績は最下位運動は苦手…あっ追いかけっこと鬼ごっこは得意、家庭科位しか取り柄が無い僕に、果たしてお見合いしてくれる人なんているのだろうか。


 宿題は解答欄良くズレるし、英語はローマ字読みしか出来ないし、国語は読めるけど漢字は書けないし、もう掛け算割り算出来れば人生に困らないと、数学の先生に匙を投げられてしまった。


 家庭科の先生だけが料理や裁縫が良く出来てるって褒めてくれて大好きな授業だ。この前作ったガトーショコラは友達に好評だった。オメガは結婚して家庭に入る人多いんだから、もう学校なんて家庭科だけで良いのに…。


「シャラップ!!人の事笑わない!貴方達も発情期任せのセフレとか爛れた関係を持たず、ちゃんと結婚して子供を産む事を考えなさい!」

「せんせーそんな考え時代錯誤ですよ。今では優秀な抑制剤があるんですから、オメガでも一般人同様働きに出られる時代ですよ?何やってもドジばっかりな百川は別として」


 別に僕を蔑む言葉を投げ掛けられるのは今に始まった事じゃない。生まれた時から狼の耳と尻尾が生えていて他の子と違っていて、同じオメガでも別の生き物だと認識しているからか、いちいち僕に突っかかってくる人が居る。


「あんた達ね〜!!」

「良いんですよ先生、それに僕自身家庭に入るよりも庭で駆け回っている方が楽しいですから、ほら僕狼というより犬ですし!」


 先生達は庇ってくれるけど僕は気にしない事にしている。寧ろ戯けて笑いを取る様にすれば、怒りや悲しみよりも笑いが取れた事に嬉しさを感じる。


「全くあなたって子は…先生、百川君にいい相手が見つかる事、願ってますからね」


 そう言って先生が僕の頭を撫でる。素直に嬉しくて心地よくて尻尾が揺れてしまった。それでもこんな僕も貰ってくれるアルファ+なんているのかなぁ、何て脳裏で思ってしまう。


「兎に角ヒートが来たら必ず抑制剤を飲む様に!もし出先で抑制剤を忘れたら近場の薬局に向かえば、学生はタダで貰えます。それとアルファに項を噛んで貰えば、多幸感に包まれますがもし相手のアルファが番を解消したら、一生番を作る事が出来ない人生を送る事になります。なので良く相手を見極めて番になって貰うかどうかを判断するように!」

「大丈夫ですよ先生、学生はチョーカーを着ける事を義務付けられてますから」

「鍵はちゃんと自宅の机の奥に仕舞ってありまーす」

「よろしい!くれぐれも無闇矢鱈に持ち歩かない様にして下さいね。落としたりしたら再発行に最短でも1週間掛かります!」

「「「はーい」」」


 そこまで先生が説明してチャイムが鳴った。 


「はい今日の授業はここまで!自分の教室に戻って下さーい」

「「「はーい」」」


 僕は勉強道具一式を持って廊下に出ようとした。


流李るい君!」


 その前に先生に呼び止められてしまう。


「何ですか?」

「あと数ヶ月で卒業式…謂わば高校1年生になりますが、春休み中ハメを外して面倒臭がってチョーカーを外したり、抑制剤を持ち歩き忘れたりしないようにしなさいね!」

「はーい、わかってまーす!」

「本当にわかってんのかね…先生も来年から高校の先生になろうかしら」

「何処まで信用無いんですか!」

「春休み中、何かあったら先生に相談しに来ても良いのよ、わかった?」

「はーい!」

「よろしい、それじゃあクラスに戻りなさい」

「せんせーさようならー」

「はいさようならー」


 先生の見送りを貰い今度こそ僕は教室を出た。

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