第8話 クラス制度
「ここに隠れていることは分かっている。抵抗しないで出てくるのだ!」
扉の奥から見知らぬ男性の声が聞こえてくる。
もしかして、俺との決闘を挑みに来た生徒か? 周囲には気をつけていたはずなのに、どうして俺の居場所が分かってしまったんだ。
「ひいぃぃぃぃ! どうしてここに居るってバレてしまった! オルフェ、悪いが代わりに出てくれ。ワシは隠れるのでな。居ないと伝えてくれ」
俺に対応を任せると、アーバンは急いで建物の奥へと引っ込んでいく。
どうやら俺との決闘を申し込んできた人物ではないようだ。
このまま居留守を使う訳にはいかない。
そう思い、扉に近付くとゆっくりと扉を開ける。
「はい。どちらさ……」
扉を開けた瞬間、俺は目を見開く。
目の前に居た男がいきなり拳を振り上げ、俺の顔面に向けて拳を放ってきた。
「メタルスピード!」
直ぐに魔法を発動し、筋肉の強度を上げて腕をクロスし、男の拳を防ぐ。
「いってえええええぇぇぇぇ!」
男の拳がクロスされた腕に触れた瞬間、男は悲鳴を上げて、涙目になりながらこちらを睨む。
「俺は強化魔法なしの素手で殴ったのに、そっちは強化魔法を使うなんてズルじゃないか! アーバン!」
どうやら彼は俺をアーバンと勘違いをして殴ってきたようだ。それにしてもいきなり殴ってくるなんて、あの爺さん何をやらかしたんだ?
「悪いが、アーバンはいない。あいつに何のようだ?」
「うん? よく見たら、君は昨日の決闘で大穴を開けたオルフェではないか」
男は何も知らない人であれば勘違いをする表現を口にする。
ギャンブル界では人気のない賭けの対象を穴と呼び、大穴を開けるは穴である人物が勝つことを言う用語だ。
「もう一度聞くが、アーバンに何のようだ?」
「そうだ。あのクソジジイが戻ってきたら借金を返済するように言ってくれないか?」
アーバンのやつ、この男に借金をしていたのか。
「分かりました。因みにいくら借金をしているのですが?」
「100万ゴールドだな」
「100万!」
「ああ、最初はギャンブルに勝て倍にして返すと言っていたのだが、結局はハズレて頻繁に借りるようになり、積み重なって今の金額になっている」
あの男、ギャンブル依存症ではないか。
「分かりました。アーバンには後で言っておきます」
「頼んだよ。俺にも嫁と3人の子どもを養っているんだ。今月は支払いが多くて生活費が苦しいから、毎月1万ゴールドずつでも返してもらいたい」
聞いてもいないのに家庭の事情を口にすると、男は去って行く。
「あの人行ったぞ」
何処に隠れているか分からないアーバンに向けて男が去って行ったことを伝える。すると、奥の部屋の扉が開き、彼はこちらにやってきた。
「ナイスだ。流石ワシの見込んだ男と言うことだけはある」
「アーバン、お前借金していたのかよ」
「確かに借金はしているが、借りたお金の殆どは魔法研究の資材の分だ。決して全額を決闘の賭けに使ってはいないからな」
このままでは自身の印象が悪くなると思ったのだろう。彼は聞いてもいないのに自らお金の使い道をカミングアウトした。
「昨日の決闘で俺の単勝を買って儲けたよな? あの一部でも返済してやれば良いじゃないか」
「それは、無理だ。昨日儲けた分は全て魔法研究の材料代で消えてしまったからな。アハハ!」
爽やかな笑顔で笑い声を上げる彼のことを、どうしようもないように思えてしまう。
「そうだ! 名案を思い付いたぞ! お主、悪いがワシの代わりに借金を返してくれないか? 昨日の賞金を使えば、たった100万ゴールドくらい返済できるからな」
「どこが名案だよ! 人様の金で借金を返済しようとするな!」
突拍子もない彼の言葉に声を上げて反論する。
こいつ、遂に落ちる所まで落ちてしまったか。
「そう声を荒げるではない。お主にとっても利益となることだ。もし、代わりにワシの借金を返してくれれば、今後無償で開発した新魔法をお主にくれてやる」
何! 無償で新魔法を提供してくれるのか! 確かに100万の出費でこれから新しく開発される魔法を提供してもらえれば俺の方が利益がある。でも、それだとアーバンの方は損失がでかいようにも思えるのだが?
彼の言葉の意図を探っていると、ある考えに辿り着く。
「もしかして、俺が新魔法で能力が上がれば、勝率が上がって決闘での単勝を買いやすくなると考えているのか?」
「その通りだ。今は人気のないお主の単勝を買おうと思う者は少ない。今は隠れた実力者扱いで
確かに、互いに投資し合えば最終的にはwinーwinの関係となるだろう。アーバンの言う通り、俺にも利益がある。
「分かった。だが、約束は守ってくれよ。もし、約束を破れば、俺が借金取りになるからな」
「安心せい。このアーバン、約束は人気薄の大穴単勝並みに守るぞ」
「それって信頼度が低いじゃないか!」
思わず声を上げてしまう。
でも、いくらなんでも彼はバカではない。あんなことを言えば借金の肩代わりをしてもらえないと思うはず。きっと彼なりのジョークなのだろう。
「はぁ、分かったよ。さっきの男に返済してくれれば良いのだろう。で、あの人は何処に居るんだ?」
「あやつはこの学園内にあるギルドに居る。受付譲にスティンガーを呼んでくれと頼めば、面会できるであろう」
「分かった。今から行ってくるよ」
借金の返済を肩代わりする約束を交わし、魔学研究所へと向かう。
それにしてもギルドか。ランク最下位だった俺にはこれまで縁がなかった場所だな。
この学園の生徒には全員がランク付けされている。一番下のメイドゥンクラス、そしてファーストクラス、セカンドクラス、サードクラス、オープンクラス、リステッドクラス、G IIIクラス、G IIクラス、そして全てのクラスの頂点に立つG Iクラスとなっているのだ。
ランクを上げる方法は複数ある。教師に認められることや、生徒達の推薦などがあるが、これらはクラスを上げるには効率が悪い。クラス上げをするには決闘が一番だ。決闘で1回勝りする毎にクラスが一つ上がる仕組みになっている。
どうして生徒同士が戦うことで上のランクに上がることを学園側が黙認しているのかと言うと、学園側も儲けたいからだ。
決闘制度を利用することでお金を集め、その一部を学園の運営に回すことで、経営を成り立たせている。普通の運営ではこの学園を維持させるお金が足りないのだ。
そしてランクが上がれば使用できる施設が開放される。今から行くギルドも、ファーストクラスになってから入ることを許される。
ランキングやギルドのことを考えながら歩いていると、いつの間にギルドに辿り着く。
ギルドの外観は普通の建物と代わりないが、入り口だけが違う。魔法で作られたゲートを通り抜けなければならない。
この魔法のゲートは許された者以外は弾き飛ばす防衛魔法がかけられ、ファーストクラス以下は入れない仕組みになっている。
大丈夫だよな? 俺、ちゃんとファーストクラスになっているよな?
まさか、エリカお嬢様を倒したのはまぐれ扱いにされてノーカンになっていないよな?
一松の不安を覚えながらも、ゆっくりとゲートの中に入って行く。
俺の体は魔法のゲートに弾かれることなく受け入れられ、ギルド内に入ることができた。
ふぅ、どうにか無事に入ることができたな。
「あら、あなたオルフェじゃない?」
突然真横から声を掛けられ、俺はびっくりして声を掛けられた方に顔を向ける。
「え? どうして君がここに居る?」
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