限りある命〜其の弐


地図に書かれていた家は直ぐにわかった。路地裏の入り組んだ場所だったが、レインは魔法の痕跡を強く感じ、導かれ辿りついた家のドアをノックすると、少女が顔を覗かせた。

「誰?」警戒的な声だ。

「私は薬を扱う仕事をしているの。こちらの奥様にお世話になったという人に恩返しがしたいからって頼まれてここに来たのよ」

「嘘!騙されない」噛みつきそうな勢いでレインを睨む。

「あぁ、いきなりで驚かせちゃったよね。ごめんね。私は色々な薬を扱っているから、私の薬で誰かが元気になるのが一番のやり甲斐なのよ。信じてくれないかなぁ?」

「じゃあ薬を頂戴」

「患者さんを診なくちゃどんな薬が必要なのかわからないわ」

「本物なの?今までたくさんの薬売りが必ず治るって言った薬はまるで効かないのばかりだった」

「その人達、診察もしてないなら呆れたものね。そんな事したら悪化する事だってあるのに」

「!!そんな⋯いいわ、入って」セイラに目配せをしてレインは少女についていく。


「ありがとう。体調はどんな感じなのか教えてくれる?」簡素だが整った部屋の奥の扉を軽く叩く。

「ずっと元気だったのに、ここ1年で一気に老け込んでお婆さんのようになって今は寝たきり」

「何かきっかけのような事が分かればいいんだけど」魔法が絡んでるの確実だ。

「この部屋。母さん入るよ。薬師さんが来てくれたの」

扉を開けると懐かしい魔法の残り香が流れてきた。

レインは部屋に入りベッドに横たわる老婆に駆け寄った。

「こんにちは。私はレインと言う薬を扱う者です。少しお話する事は出来ますか?」老婆は薄く目を開き頷いた。

「あんた魔女かい?」老婆はレインの特殊な紋章の刻まれたバングルを見て言う。

「これがわかるのね。魔女に知り合いがいるのかしら?」

「この命は魔女に貰った命なんだよ。本当ならとっくにこの姿になって死の国さ」

「掛かっている命の魔法が切れるのは術者が死んだ時よ。その魔女は何処にいるの?」

「あんたの言う通り死んだんだろう。会った時から高齢な人だったよ」

「何があったかわからないけど、若返りの秘法を使ったのね。何年分なの?ずいぶん無茶な事を⋯」

「30歳若返ったね。笑っておくれよ。うちの亭主と一緒になりたかったんだよ。娘も生まれて幸せだったよ」

「まだ娘さんにはお母さんが必要です。街の人々も心配してます。諦めないで下さい」レインは薬草の粉末を並べ小皿に少量づつ加えていく。

老化の進行を遅らせる事はできる。だが1度若返りの秘法を使ったなら、魔法は効かないだろう。だが、今の症状は急激な老化に身体が追いつかずに起こるものですぐに命の危険はない。


部屋を見回すと棚の上に並べられているのは、数々の占いの道具だ。

「占い師なのですね。街の人々の感謝は貴方のおかげで商機を掴んだってとこかしら?」

「あの頃は妙に先が観えたんだよ」

「優れた未来視の力お持ちなのですね。」言いながらレインは手早く調合した薬を湯に溶かし渡す。

「これは、本来の年齢から来る病状を抑える薬です。若返ったりはしないけど少し楽になるはずです」

老婆は頷き受け取った薬を少しづつ飲んだ。

「不思議なお嬢さんだ。もう少し話がしたいんだが⋯シーラ、体を起こすのを手伝ってくれるかい?」少女に向けて言う。

「母さん大丈夫なの?薬、本当に効いてるの?」母親の身体を支えながら心配そうに娘のシーラが母親とレインの顔を交互に見る。

「あぁ、霧が晴れたかのように頭がスッキリしているよ。ありがとうレインさん」

「無理はなさらないで下さい。先程のお薬は続けて飲まないと効果が切れますので」

「シーラ、彼女と2人で話をさせておくれ」シーラは頷き部屋を出ていった。


「すまないけど聞きたい事があってね。レインさんは魔女の知り合いがいるだろう?」

「いえ、私ははぐれ魔女⋯というのか、薬を作ったり細々と暮らしておりますので…」

「そうなのか、だけどオーディーという魔女は知らないかい」

聞くなりレインの顔が青くなりぶるっと悪寒が走った。

「その様子、知っているんだね。」

「そ、祖父の知り合いの方なので。わ、私は親しくありません」

「祖父?そういえばオーディーの話によく出でくる老人がいたねぇ」

ピクっとレインの眉が動く。

「お、オーディーさんは何と」

「あのジジィには敵わないとか、行方を眩ませてただじゃおかないとか。オーディーは口は悪いけど、とても腕のいい方でその方を尊敬していたようでしたよ」

「はぁ?オーディーがお師匠を尊敬?ないない」つい地が出てしまい慌てて口を噤む。

「あなた、もしかしてアーディアナさん?」

「ぶふっっっ!まさか!違います」レインは大慌てで否定した。

「そうなの?アーディアナさんの事はご存知かしら?」

「えっと、お話は聞いた事があります」

「オーディーがね、何かあった時はアーディアナさんに任せてあるっていってたの。アーディアナさんは何処にいるのかしらね」

「あ、あの、アーディアナさんとお会いした事は?」

「それがないのよ。どんな方なのかしら?

「あ〜、それは、なんというか」既にレインはしどろもどろの挙動不審だ。


⋯あー、ちょっとどうしよう…。オーディーの事ならアーディアナしかわからないよ。


あーもう、オーディーの莫迦莫迦!!私に後始末が回ってくるなんてなんて因果なの〜。ため息しか出ないよ。


妙な事に首を突っ込んだ自覚はあったけど、このままにしておくつもりはないレインだった。





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