【夏】

町の空が白くかすむほどの暑さだった。

 古い商店街のシャッターには、色あせたポスターがいくつも重なって貼られている。

 美希の提案で、七人は「最後の夏祭り」を開くことになった。


 午後の陽が沈むころ、風鈴の音が通り抜けていく。

 石原は汗を拭きながら会計の帳簿をまとめ、奈緒はタブレットを抱えて走り回る。

 西村は子どもたちを集めて舞台のリハーサルをしていた。


 屋台の火が灯る。

 理沙の生徒たちが吹くトランペットの音が、海風に溶けていく。

 村井のカメラのシャッター音が、その一瞬を閉じ込める。

 剛は、小さなノートにその情景を言葉にして書き留めた。


 ──夜。

 灯り屋の前の風鈴が鳴った。

 奈緒はその音を聞きながら、ぽつりと呟いた。


 「誰かと何かを作るって、こんなにあたたかいものなんだね」


 その横顔を、剛は潮風越しに見ていた。

 遠く、波がゆるやかに光を返していた。

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