第11話 【夫婦の共闘】私室の秘密の鍵、団長が用意した「真の機密文書」
王宮の地下、尋問室。
文官の厳しい追及にも関わらず、私はあくまで余裕の態度を崩さなかった。強欲な悪女の仮面を被り、夫の不正には興味がないと主張し続けた。
「団長が不正を働いたなら、わたくしは彼の持つ資産を全て横領し、さっさと国外に逃げるでしょう。なぜ、こんなところであなた方の遊びに付き合わなくてはなりませんの?」
私の冷淡すぎる発言に、文官たちは動揺する。彼らは、感情的な女のパニックを期待していたのだ。
その様子を、リリアーナは苛立たしげに見ていた。
「セシリア様、そのようなことをおっしゃらずに。団長様は、あなたのために不正を働いたのかもしれませんわよ? あなたの豪華な生活を維持するために……」
リリアーナは、私に"ゼフィールの愛にすがっている"という弱点を突き、感情的な動揺を誘おうとした。
私は鼻で笑い飛ばす。
「冗談はよしてくださいませ。愛? わたくしと団長の間にあるのは、冷たい契約だけ。わたくしが団長に求めたのは、愛ではなく、権力という名の命綱です。彼が不正を働くような愚か者ならば、わたくしは彼を切り捨て、次の命綱を探すまでですわ」
リリアーナの顔から、優越感の笑顔が消えた。彼女は、私の"悪女"の徹底ぶりに、震えおののく様子をみせていた。
(もう少しよ。ゼフィール、お願い。メッセージに気づいて!)
私は、あの紙片に暗号を記した瞬間を思い出していた。ゼフィールが孤児院で見せた"優しさ"は、同時に彼の"弱点"でもある。あの優しさを守るため、私は今、最も恐ろしい女を演じなければならない。
その頃、ゼフィールは、黒の竜騎士団本部で驚くべき行動に出ていた。
セシリアからの暗号を受け取った彼は、すぐに部下に黒竜城の私室に向かうよう命じた。
「第三倉庫の鍵は、私室の壁にある。探し出せ」
「団長、私室に鍵など……」
部下の騎士は戸惑ったが、ゼフィールの冷徹な命令に逆らうことはできなかった。
部下は言われた通り、ゼフィールの私室の壁を調べた。そして、壁の黒曜石の彫刻の一部が、かすかに動くことに気づいた。彫刻を押すと、壁の隙間から、精巧な銀の鍵が出てきたのだ。
「まさか、こんなところに……」
その銀の鍵は、黒竜城の地下深く、第三倉庫の扉を開けるものだった。
倉庫の中は、一般的な備品はなく、魔法陣が刻まれた厳重な鉄の箱が一つだけ置かれていた。
「これが……団長が私室の鍵を破ってまで回収させたかったもの……」
部下が鉄の箱を開けると、中には、ゼフィールの印章が押された分厚い羊皮紙の束が入っていた。
それは、王国の最新の軍事機密文書ではなかった。
羊皮紙には、こう記されていた。
『竜騎士団長ゼフィール・クロムウェル、継承者たる王太子アルベールへの権力移譲に関する、機密書類及び証拠の所在』
そして、その書類の末尾には、ゼフィールが長年にわたり、王太子アルベールに秘密裏に渡し続けていた機密文書の正確なコピーと日付、そしてそれに対する王太子の署名入り受領書が添付されていた。
「これは……!団長は、自らの"不正"の証拠ではなく、"王太子が不正を企てる可能性"に対する、保険を用意されていたのか!」
ゼフィールは、自分が異端者ゆえに常に疑われることを知っていた。だからこそ、自分の"真の機密"は私室ではなく、誰も知らぬ地下に隠し、代わりに、王太子の不正の証拠をいつでも提出できるように準備していたのだ。
それは、王太子を信用していない証拠であり、同時に自分と妻の命を守るための、究極の盾だった。
ゼフィールの部下は、この真実の重さに震えながら、すぐにその書類をゼフィールへと届けた。
__________
尋問室。
リリアーナがさらに追及の声を強めたその時、扉が激しく開け放たれた。
「――そこまでだ」
そこに立っていたのは、黒い軍服を纏い、いつもの仮面を完璧に着けた、ゼフィール・クロムウェル団長だった。
彼の登場に、文官もリリアーナも凍りついた。謹慎処分を受けているはずの彼が、王宮に現れたのだ。
ゼフィールは一歩ずつ室内へ進むと、尋問室の机に、厳重に封印された一つの鉄の箱を叩きつけた。
「王太子殿下の側近よ。貴様たちは、私の私室から見つかったという偽りの機密文書を証拠に、私と、私の妻を陥れようとした」
彼は冷徹な視線をリリアーナに向けた。リリアーナは恐怖で顔面蒼白になり、座っていた椅子から崩れ落ちた。
「だが、残念だったな。私の私室の真の役割は、『偽りの計画書』が作られた場合の、反証のための書類を隠す場所だ」
そして、ゼフィールは鉄の箱を開け、中から、王太子の署名入り受領書が添付された"真の機密文書"の束を取り出した。
「これは、長年にわたり王太子殿下に流された機密文書の原本の控えだ。この控えと、貴様たちが提出した偽の文書を照合すれば、どちらが本物で、どちらが捏造であるか、一瞬で明らかになるだろう」
ゼフィールは、私を陥れようとした者たちに、圧倒的な知恵と力で反撃を仕掛けたのだ。
そして、彼は私の方を向いた。
「セシリア」
彼は私の手を取り、周囲の視線も気にせず、力強く引き寄せた。
「お前は、私との契約を完全に履行した。お前の"悪女の知恵"が、我々の命を救った。もう、こんな場所には用はない」
「団長……」
彼の熱い手が、私の冷たい指を包み込む。
そして、彼は尋問室にいる全ての人間に向かって、愛のない契約からは想像もできないほどの、強い独占欲を込めて宣言した。
「この女は、私の所有物だ。二度と、私の妻に触れるな。さもなくば、この国で最も恐ろしい死を与える」
(第11話・了)
(次話予告:【報復の宴】王太子とヒロインの末路〜ラスボス団長が見せた甘い素顔〜)
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