序章中編-ブサ剣士と無能術者-

◇◇◇◇◇



魔物は対面する敵を注視する!



白金に輝く長髪を靡かせる剣士は、

流暢な仕草で剣を振り上げ、

高速の一閃を振り下ろした…!


…と、


思いきや、その一撃は見事に的を外す!



それを横目で流し見る

輝く、銀の髪の女術者である相棒は、

小さく愛らしい口元で

下品に舌打ちしながら、

敵を睥睨する。



魔物:(アノ女ハ魔法ヲ繰リ出ス気ダロウ!

術ヲ出サレル前ニ

先手ヲ撃タナケレバ!

…イヤ、ダガ…罠カモシレヌ!

反撃カラノ大魔法カ⁈)


女術者と魔物…両者警戒し、

硬直状態だ!


女術者は思案する…


この隙に…

きっと相棒の剣士が…

(先ほどは痛恨のミスをしたが)

再度攻撃を繰り出すだろう…!

きっと、助けてくれる…!

女術者はもう一度、

剣士を横目に見る。



剣士、



剣が未だ地面に突き刺さり、

引っこ抜くのに必死で


完全に!


我を忘れている!!!



対峙している魔物もまた、

女術者の目の動きに合わせて

剣士を見…、、、

二度見する。



「、、、」



この間、既に数分経過…



、  、  、



一向に地面から抜けない剣に、

女術者も加勢に行くようだった。



「……ン??」



魔物はドン引いていた。

そして、何より安心していた!


「ア、、

ナンダー!

人違イダッタミタイダ!

白金ノ剣影ジャナイアルヨ!

全然ッ!違ッタ!」


古の記憶の存在とは、

どうやら、人違い?のようだ!


「髪ノ色ガ似テタダケダッタ!」


いや、しかし

ただの冒険者といえど、油断していては

ダメだ!

これは、己を油断させる為の

これは罠かもしれないし!


魔物は、気持ちを切り替え

目の前の敵を睨む。

どうやって、この場を切り抜けるか…?


魔物は、別に賢くはなかった。

腕力や顎力は多少はあるが…

攻撃手段はそれだけだ。

もっと位の高い魔物なら、

特殊技や魔法だって使えるのに…

己は最下層の存在…


…だって、だって、



ただのネズミだもん!!



(ちょっと大きめで、長生きなだけの)ネズミの魔物は、

己の立場を再確認…


下手に相手へ深読みするからダメなんだ!


ここはやはり、

最弱魔ネズミらしく…

脳筋で突進すると…決めた!


だが、

それは決して勝利を確信したからの

決断ではない。


冒険者なんてのは大抵、

ピンチだったり、

油断してる…そんな時、

不意からの攻撃も何故か、

避けられて、反撃からの大逆転とか!

チート回避をものだ!

それがファンタジー系の鉄則だ!

人間は神様から

愛されまくっているのだ!


ほぼほぼ、何があっても…


序盤に出くわす雑魚魔物(己)は

倒されるのが運命…


ああ、そう決まっている。


やはり最弱の己などただの踏み台なのだろう。


大昔のあの時は、

何故か助かったが…

自分も、もはやこれまで…


己の宿命を振り返り、

少し悲しくもなる…

そして、

魔ネズミに、

自暴自棄という気持ちが芽生える…


なら、踏み台らしく見事に散ってやろう!

そうだ、そうだ!

それが漢ってものだ!

走る速度を更に上げ、

魔ネズミは剣士と術者へ無謀な頭突きを試み…


見事に散るのだった!!



ニ人の冒険者が…。



「げふっ⁈」



突然、ニ人は物凄い衝撃と共に

空中へ吹き飛ばされ…

そして、地面へ叩きつけられた!


白金の剣士の視界に星がキラつく。

更に地に打ち付けられ、

全身に衝撃が走る。


続けて、同じく吹き飛ばされた女術者が、

剣士に覆い被さってきたのだ!


「ふみゅ⁈」


幸い?

剣士の上に、尻餅をついた女術者の

ダメージは軽いようだ!


(剣士は追加ダメージを喰らったようだが)


女術者は、

土の付いた衣服を手で払い、

神妙な顔つきで

そこに倒れている剣士へ助言する。


「ふむ…敵が強い。

ここは戦術的撤退でよかろう。」


全身土まみれになった剣士も、

よろよろと立ち上がり返答する…


「グフうぅ…そうでふねぇ。

ボキ達の手には負えないようだぁぁ」


…と、白金の美しい長髪を靡かせた、

美男子剣士は敗北を認め…


いや?

美男子??


いやいや!いやいやいや!


よく見れば…

白豚の如く脂肪を豊満に身に纏う、

脂ぎった…

すっごいデブ…だ(全言撤回)


…ブサ剣士は、敗北を認め、

吹き飛ばされた衝撃で

引き抜かれた剣を杖代わりにつかまり、

女術者に同調する。


一方…

反撃される気、満々だった魔ネズミは

あり得ない展開に数秒間ほど混乱し、

固まっていた。


更に驚くべきは…


魔ネズミがやっと我に返る頃には、

人間達はとんでもない速さで

逃亡した後だったのだ。



あの人間の冒険者ら…

逃げる速さだけは超一流だった…な…


「サスガハ冒険者??」


魔物の中でも最下層、

初心者冒険者向け、

魔物として定番の

魔ネズミは混乱したまま、

ニ人の冒険者を見送るのだった。


しかし、あの人間の冒険者共…

この先、冒険者を続けていけるのか?

あんな実力で…


全然関係ないのに、

ちょっとだけ心配になる

魔ネズミだった。




(第一部一章序章後編へ続く)

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