第35話
ドードーのコウとたっぷり遊んでから、リンゼとバイクに二人乗りして神殿に戻ってくると、険しい表情をした執事のモーリさんが待っていた。
「シンジ様、イプシロン様がお待ちです。リンゼ様もご同行下さい」
俺たちは何か不味いことでもしでかしてしまったか?
市街地をバイクで走ってはいけなかったのだろうか?
俺とリンゼは顔を見合わせた。
イプシロンの部屋に通されると、そこにはイプシロンの他にシーラも居た。
「シンジ殿、急に呼び出してすまなかったな」
「いえ、俺たちに何か御用でしょうか?」
「うむ、急遽明日『使徒会議』が開かれることになった。そなたをミュウの眷属として認めるか?という議題じゃ。どうも、そなたがヴェノムスパイダーを討伐したという情報が洩れてしまったようなのじゃ」
使徒会議とは、神権政治を行っているこの異世界で、神託の内容を確認する最高意思決定機関である。
使徒とは、神の声を聞く特に強い神力を持った神職のことだ。
各地区を代表する18人の使徒によって構成される会議体だが、司教のイプシロンの他に、城郭都市ウルの市街地を統括する司祭が1人、農村部の12地区から司祭が1人ずつ、4つの衛星都市から司祭が1人ずつ選ばれている。
しかし、箝口令が敷かれていたにもかかわらず、ヴェノムスパイダー討伐の情報がなぜ漏れたのか?
俺は喋っていないし、ミュウは神殿に缶詰状態だ。
イプシロンが漏らす筈は無いし、ギルド長もシーラも喋らないだろう。
モロー博士はうっかり喋りそうだが、話を聞いてくれる相手が居ない。
俺が後ろを振り返ると、リンゼの目が泳いでいた。
おまわりさん! 犯人はコイツです!
「今は何故情報が漏れたかというのは大きな問題ではない。情報漏洩に関してはシーラに処置を一任しておる。喫緊の問題は、明日の使徒会議をどう乗り切るかということなのじゃ。すまぬが、シンジ殿にも明日の使途会議に出席して貰うことになった」
かなり面倒なことに巻き込まれてしまったようだ。
「イプシロン様、俺は会議に出席して何をすれば良いんですか?」
「シンジ殿は何もしなくても良い。いや、何もしないで欲しい。シンジ殿が単独でヴェノムスパイダーを討伐したことも
黙っていて良いなら、わざわざ会議に出席する必要は無いと思うのだが、、、
「ですが、イプシロン様、シンジさんが単独で魔獣を討伐したことが公になれば、ミュウさんがシンジさんを眷属にしたことも直ぐに認められるのではありませんか?」
少しでも罪を軽くしたいリンゼが余計な口を挟んだ。
シーラは物凄い眼つきでリンゼを睨んでいた。
あれは眼力だけで人を殺せるな、、、
「普通であればリンゼの言う通りじゃ。神力の無い者が魔獣を倒すと言うことは奇蹟に匹敵する偉業じゃからな。だが一方で、神力の無い者でも魔獣を倒すことが出来ると言うことは、神職を中心とするこの世界の秩序を揺るがすことにも成りかねん。特に政治状況が不安定な現状では、真実が公になることで話がどう転がっていくか
「、、、」
リンゼ、死んだな、、、
しかし、これは俺にとっても相当やばい話だ。
俺の魔獣討伐が「奇跡」と認定されれば偉業だが、「禁忌」と認定されれば俺は異世界から追放されるだろう。
いや、追放だけで済めば良いが、、、
シーラから聞いていた話では、現在の使徒会議は、イプシロンを支持する派閥と、市街地を統括するプサイ司祭を支持する派閥の2つに割れているらしい。
今のところ、イプシロン支持派の方が優勢だが、プサイ支持派も市街地の経済力をバックにして勢力を伸ばしている。
そんなところに降ってわいたのが、ミュウの眷属問題、つまり俺だ。
本来であれば、ミュウが眷属を選ぶ場合には、予め使徒会議に諮っておくべきだったのだ。
順番を違えているとミュウがイプシロンから叱られたのは、こう言う事情があったのである。
イプシロンとしては、俺がヴェノムスパイダーを単独討伐したことをカードにして、権力闘争を優位に進めるつもりだったようだが、リンゼの不用意なお漏らしで、先にプサイ支持派から仕掛けられることになってしまった。
そもそも、このカードは両刃の剣であったのだ。
建前上、使徒会議は神の声を聞く場なのだが、実際のところは、異世界における権力闘争の主戦場になっていた。
異世界の権力闘争の真っただ中に放り込まれても、俺はまな板の上の鯉になっているしか無いだろう。
「イプシロン様、明日の使徒会議についてはお任せします。話は変わるのですが、ドードーを買うために金が必要なのです。現金収入を得るためにまた魔獣討伐をしようと思っていたのですが、今の状況では不味いでしょうか?」
「シンジ、ドードーに乗れるようになったのか?」
シーラは驚いている。
「そうなんだよ姉さん、上級ハンターでも拒絶するドードーが、なぜかシンジさんだけには懐いてね、、、」
俺が軽い話題に切り替えたので、リンゼが全力で乗って来た。
リンゼ、まだ諦めていなかったのか?
「うむ。ドードーに認められたと言うことは喜ばしい話だが、確かに今の状況では、不用意に魔獣討伐を行うのは不味いだろう。そのドードーについては
「はい、ご配慮有難うございます」
とりあえず、打ち合わせはそれでお開きとなった。
リンゼはシーラに引き摺られながら部屋から退出していった。
去り際に、シーラから「こんな時にドードーの話を持ち出すなんて、シンジは豪胆なのか鈍感なのか?」と呆れられたが、異世界の権力闘争に関して俺に何か出来ることは無いのだ。
こんな時に、リリウムと連絡が取れないのは痛い。
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