第17話 学校初日の試験 1
「起きなさーい!」
ばさっと布団が剥ぎ取られる。楓は寝ぼけて手を伸ばす。どんっ。衝撃とともに頭を床に打ち付けた。
「ほにゃ〜?」
「なに人間やめてるのよ?さっさと起きなさぁーい!!」
木葉の怒鳴り声で頭が覚醒する。楓は勢いよく立ち上がった。
「あぁぁっ! 学校ー!」
時計を見るが、まだ学校の時間まで一時間以上ある。それに安心した楓は二度寝をしようとベッドに横になった。
「だからっ! 起きなさぁーい!」
「フゴォッ⁈」
木葉の怒りのパンチが楓の腹部で炸裂する。その華奢な身体つきからは想像もできない強力なパンチだ。楓はあまりの衝撃にお腹を押さえて、再び床に頭を打ちつけた。
「イタタタタ……うーん……」
よろよろと立ち上がると、腕組みをした木葉と目が合った。
「あ、おはよー、木葉」
「おはよう、さっさと着替えて朝ごはんを食べるわよ」
なぜだろう。まだ学校まで一時間以上あるぞ?楓は時計を指差して木葉に問いかける。すると、木葉は呆れたように手をひらひらと動かした。
「学校始まって早々遅刻寸前に教室に滑り込みでもしたら、すごく目立つじゃない」
「うん、それが?」
木葉の意図がわからず、首を傾げた。
「あのね、楓、あなた、もう既にすごく目立っているの! で、さらに無能力者だってバレるともっと目立つでしょ? その上、遅刻なんてしてみなさい! 大変な事になるわよ!」
考えてもみなかった。これ以上目立つ事はしない方がいい。本当にその通りだ。楓も不用意に目立ちたくはなかった。
「そうか……、ありがとう、木葉。木葉がいなかったら、ボク、どうなってた事やら……」
「本当にそうよ。私がいなかったら、あなた色々と終わってたわよ。私に感謝しなさい」
おーほっほー、とにやにやしながら木葉は笑い出す。どことなく木葉にムカついたが、木葉が言ったことは本当にその通りだったので、何も言い返すことができなかった。
「朝ごはんはもう調達して来たから、さっさと用意して」
「はーい」
髪を結んで顔を洗い、制服を着る。準備を終えて、机、というかちゃぶ台だが、の側に行くと、木葉は小さな机に朝ごはんの用意を広げて待っていた。
「ごめん、ごめん」
「何よ、さっさと用意もできないの?朝ごはん、私が食堂に取りに行ったんだから」
木葉は言葉とは裏腹にあまり責めている顔ではない。どちらかというと、からかわれているようだ。
あはは、と頭を掻きながら、楓は腰を下ろした。
「ありがとう、木葉」
朝食を済ませた二人は、部屋を出た。楓は鍵がかかった事を確認すると、軽い鞄を担いで歩き出す。まだ学校が始まるまでは30分ほどあるので、ゆっくりと歩きながら教室棟に向かう。
「おはよう、光希」
木葉はほとんど同じタイミングで寮を出た光希に声をかけた。これは偶然なのだろうか?
「相川、何でここに? 早くないか?」
どうやら楓達と関わりたくなかったようだ。うんざりした顔でゆっくりと光希は振り返った。
「お前達には関係ない」
「まあ、それもそうだ」
楓は勝手に一人で納得して、頷いた。木葉は楓の意識が光希から逸れた時を見計らって、光希に耳うちする。
「偉いじゃない。楓に合わせたんでしょ?」
「そんな訳ないだろ。たまたまだ。ただの偶然だ」
光希は無表情で何故か二回も否定する。
「ふーん」
少し白々しい返事に木葉は意味深に頷く。光希は木葉を見下ろし、それから目を逸らした。
それ以後、会話がなくなった三人は教室にたどり着いた。楓は思ったよりも多くの生徒がもう登校していた事に驚きつつ、自分の机に鞄を掛けた。
「おはようございます、私わたくし、
突然声をかけられて、楓は飛び上がった。にこにこと笑いかけてきたのは、茶髪と言うより、金髪と言った方が近い髪を深紅のリボンで結わえた少女だった。すらっとしていて、その動きの端々に育ちの良さが見て取れる。所謂お嬢という人種だろう。
戸惑いつつ、楓は口を開いた。
「よろしく、霞浦さん」
控えめに笑いかけておく。あまり関わりたくないタイプだ。亜美は自己紹介で満足したようで、くるりと踵を返した。サラサラの髪からふわりと薔薇の香りが楓の鼻腔をくすぐった。
「なんだったんだ? あいつ……」
ぼそりと呟く。もちろん優雅な後ろ姿は何も答えてくれなかった。
「おはよー! 楓!」
元気な声と共に肩に衝撃を感じた。すぐにその少女の正体を察した楓は、名前を言う。
「夕姫! おはよっ!」
夕姫は明るい笑顔をサンサンと振りまきながら、隣の男子生徒の制服を少し乱暴に引っ張った。
「こいつが私の双子の弟! 笹本ゆ……」
「
呆れたように夕姫を見て、夕馬はにこりと笑う。夕姫と夕馬は顔立ちが似てはいるが、性格は正反対のようだ。夕姫は元気系、夕馬は静かな方なんだろう。
「えーと、よろしく。天宮楓です」
「なんか、夕姫が色々迷惑をかけると思うけど、よろしくしてやって下さい」
「私は迷惑をかけたりなんかしないぞ! 何、勝手なこと言ってんの!」
夕姫は腕を夕馬の首に回して締め付ける。かなり痛そうな気がするが……。
「ちょっと、夕姫⁈」
夕姫に引きずられながら、夕馬は小さく楓に手を振った。楓も夕馬に小さく返す。夕馬も大変そうだな、と人ごとのようにおもっていた楓が腰を下ろしたその瞬間、チャイムは鳴り響いた。
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