第31話
構え、念じた。
「レゾナンススラッシュ!」
杖――仕込み刀が震え、銀色の刃先から空気が裂けるようにして真空の波が生まれた。
波は灰色の街路を一直線に走り、ミノタウロスの胸板を叩いた。
──ドウン。
鈍い衝撃音とともに、巨体がよろめく。砂埃が舞い上がり、周囲の人影が一瞬凍る。
だが、ミノタウロスは完全には倒れない。金属のように硬い皮膚が光り、ヒビが入るが肉体は立ち続けた。
フェンリルが一気に横合いから噛みつき、アナンタの六つの首が同時に巻き付く。
武井は冷静に魔導銃を操り、合間に俺に指示を飛ばす。
「若、今だ! 投げ技で重心を崩せ!」
直感が応え、動く。
ミノタウロスの腕を掴み、体重を預けて一気に腰をひねる。
鋼の塊のような相手を投げ飛ばす感触は、火花と衝撃と一緒に全身を駆け抜けた。
巨躯が地面に叩きつけられ、亀裂が走る。
その瞬間、ガイドブックが胸ポケットで震え、光の文字が浮かび上がった。
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【戦闘ログ】
・使用スキル:レゾナンススラッシュ(武装スキル)→ ヒット:ダメージ大
・使用スキル:投げ技(肉弾スキル)→ ヒット:敵行動妨害
・聖獣(フェンリル)・神獣(アナンタ)共闘:追加ダメージ発生
【ドロップ候補】
・ミノタウロスの角(素材)
・ミノタウロスの皮片(素材)
・未知の血晶(特殊素材)
【獲得経験値】
・戦闘経験値:+184(総合)
・料理経験値:+0
【現在の共鳴率(レゾナンスロッド)】 → 78%(+6%)
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ミノタウロスは地に伏し、暗い唸りを上げる。
血のように赤い光が瞳から漏れ、体の装甲にクラックが広がる。
「あと少しだ、若!」武井の声が耳に届く。
フェンリルが咆哮して最後の一撃を加え、アナンタの頭が連鎖的に締め上げる。
黒い塵となって、ミノタウロスの輪郭が崩れていった。
消滅の余韻に、街の空気が戻る。人々のざわめきが遅れて湧き起こり、遠くでサイレンが鳴り始めた。
俺は膝に手をつき、呼吸を整える。手元の仕込み刀が温かく脈打ち、共鳴率の表示がまた微かに光った。
ガイドブックが即座に更新される。ページには、俺の戦闘評価と新たな習得が記されていた。
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【ガイドブック更新】
> ■ 戦闘結果:ミノタウロス討伐(成功)
■ レベルアップ:Lv12 → Lv13(レベル+1)
■ ステータス変動:筋力+3/耐久+2/敏捷+1
■ 新スキル習得:共鳴斬(基礎)習得
■ 武具共鳴上昇:レゾナンスロッド 共鳴率78% → 共鳴効果強化(攻撃力+小幅)
■ 取得アイテム(自動転送):ミノタウロスの角×1、ミノタウロスの皮片×2、未知の血晶×1
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額の汗が冷え、身体に新しい輪郭がついた感覚がする。
レベルが上がった――表示の数字を見て確信が湧く。
刀の握りが、以前よりも確かに軽く、重くなった。
武井が近づき、無言で頷く。
フェンリルは俺の足元で静かに座り、アナンタはゆっくりと地中へと戻っていく。
「よくやった、若」
彼の声には、わずかな安堵と期待が混じっていた。
(……これで本番は始まったばかりだ)
俺はガイドブックの最後の行に目を落とす。赤い文字で短いメッセージが踊っている。
> 【注意】 次の更新は「戦闘評価」によって変化します。
選択はあなた次第。
夕暮れの街路で、俺は息を整えながら――これから何を選ぶのか、少しだけ俯いた。
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