第24話

 会社に出社するため、家を出た。

 朝の空気は少し冷たく、街路樹の葉が風に揺れていた。


 しばらく歩いていると――路地の先に、あの姿があった。


 ハウンド。


 けれど、以前のように牙をむくこともなく、こちらをじっと見ている。

 俺が一歩近づくと、ハウンドは鼻を鳴らし、そっと近づいてきた。


 匂いを嗅がれ、肩を小突かれる。

 次の瞬間、まるで犬のように擦り寄ってきた。


 (……襲う気は、ない?)


 恐る恐る手を伸ばして、頭を撫でる。

 毛並みは意外にも柔らかく、温かかった。


 「クゥーン」


 小さく鳴いて、嬉しそうに尻尾を振る。


 「……俺、行ってくるね」


 そう言うと、ハウンドはまた「クゥン」と鳴き、しっぽを振ったまま、ゆっくりと路地の向こうへ消えていった。


 (飼い犬……というか、飼いハウンド?)

 (害獣を飼う人なんて……いるのかな?)


 不思議な気持ちを抱えたまま、会社へと歩き出す。


 そのとき、視界の端にガイドブックの通知が浮かんだ。


 ――スキル【手懐け】を習得。


 風が通り抜け、心の奥が少しだけ温かくなった。


 次に、ベルキャットに遭遇した。


 電柱の影にちょこんと座り、じっとこちらを見ている。

 以前は襲いかかってきたはずのあの目が、今日はやけに穏やかだった。


 「……お前も、今日は大人しいな」


 そう声をかけると、ベルキャットは「にゃぎゃー」と鳴いた。

 それから、ふわりと尻尾を揺らす。


 まるで――「いってらっしゃーい」と言っているようだった。


 (なんで?)


 昨日まで敵だったはずの存在が、まるで日常の一部になっていく。

 それが怖いのか、不思議なのか、自分でもよく分からない。


 ……まあ、いいか。


 そう呟いて、再び歩き出す。


 駅に着くと、通勤ラッシュの人波が流れていた。

 日常の音が、いつも通りに戻っていた。

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