第18話
そんなわけ無い、と否定する。
だが、胸の奥にわずかなざらつきが残る。
情景が変わる。
――朝になっていた。
薄いカーテン越しに射す光が、部屋をゆっくりと明るくしていく。
どこか不思議な感覚。現実なのに、現実ではないような。
台所に立ち、いつも通りの朝食を作る。
卵を割り、ベーコンを焼く。パンをトーストする。
湯気の立つカップにコーヒーを注ぎ、席に着く。
食べる。
味は普通――いや、少しだけ濃く感じる。
舌の奥が妙に敏感に反応しているようだった。
新聞を開く。
昨夜見た、あの二足歩行の犬のことも。
この間、ニュースになっていたベルキャットの話も。
どこにも書いていない。
紙面を二度、三度と見返しても同じ。
……まるで、そんな出来事が最初から存在しなかったように。
ため息をひとつ。
着替える。
鏡に映る自分を見つめながら、胸の奥にひっかかる感覚を拭いきれずにいた。
あれはなんだったのか。
不思議だ。
昨日の犬のことも、ベルキャットのことも。
まるで夢の中の出来事みたいに現実感がない。
会社に出社するため、家を出る。
駅へと向かう。
通勤路にはいつも通りの朝の光景が広がっていた。
学生の集団、コンビニの袋を提げたサラリーマン、信号待ちの自転車。
――特に何もない。
電車に乗る。
車内アナウンスが響き、淡々と駅を通り過ぎていく。
降りる。
人の流れに混じって改札を抜ける。
……やはり、何もない。
昨日の異常は、まるで世界ごとリセットされたかのように消えていた。
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