第15話

 昼。


 午前の会議が終わると、自然と肩の力が抜けた。

 「昼行こうぜ」と同僚に声をかけられ、社食へ向かう。

 エレベーターを降りると、揚げ物の香ばしい匂いが漂ってくる。


 トレーを手に並んでいると、

 いつもよりメニューの種類が多いことに気づいた。


 「今日は――とんかつ定食、にするか」


 衣のきつね色が実にうまそうだ。

 サクッとした衣に、厚めのロース。

 味噌汁とキャベツの千切りが添えられ、

 まさに“王道の昼飯”というやつだった。


 箸を手に取り、一口。


 「……うまい」


 衣のサクサク、肉のジューシーさ、

 キャベツの爽やかさが絶妙に合わさっている。

 つい夢中になって食べ進め、

 気づけば皿はきれいに空になっていた。


 ――その瞬間。


 目の前に、またもやあの半透明のウィンドウが浮かび上がった。


 > 【ステータス向上:全能力+1】

 > 【魔力+3】

 > 【抗魔力+2】


 「……なんだこれ?」


 箸を持ったまま固まる。

 まさか社食のとんかつで能力が上がるなんて、

 そんな話、聞いたことがない。


 ガイドブックが自動で開く。


 > 【説明】

 > 「“生物の命を糧とする食事”は、生命力と魔力の均衡を強化する」

 > 「加熱処理された肉料理は、抗魔力を高める効果があります」


 (いや、理屈になってないけど……)


 俺はスプーンで味噌汁をすくいながら、

 こっそり窓の外を見た。


 通りにはいつも通り人々が行き交っている。

 だが、

 “何かが変わり始めている”ことを、

 俺の身体だけが確かに感じ取っていた。


 (……食べるだけで、強くなる世界。

  じゃあ次は――何を食べたらいい?)


 そんな冗談めいた思考が、

 本気で頭の中を巡り始めていた。

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