第13話

 食後、コーヒーを飲みながらぼんやりしていると――

 テーブルの上に置いたガイドブックが、また勝手に開いた。


 > 【ステータス向上:防御+2】


 「……え?」


 目をこすって見直す。

 やっぱりそう書いてある。


 (トースト食べただけが……?)


 思わず声が漏れる。

 確かに、バターを塗っただけの普通のトーストだ。

 特別な食材も使っていないし、戦闘なんてしていない。


 ――ピロン。


 ガイドブックに、さらに新しい項目が浮かび上がった。


 > 【料理スキル:パン製造 取得】

 > 【説明:パンを焼く経験により、穀物系食材の扱いが上達します】


 「なして?」


 朝食を作っただけで、パン職人ルートに入りかけている。

 昨日は肉を炒めて格闘スキルが上がり、

 今日はパンを焼いて防御力と製パンスキルが上がる。


 (この世界……完全に“日常型RPG”だな)


 ガイドブックのページをめくると、

 ステータス欄の下に、小さなコメントが追加されていた。


 > 【食べたものは、あなたの力となる】


 「……そんな哲学的なこと言われてもな」


 思わず苦笑しながら、空になった皿を流しに運ぶ。

 だが、胸の奥では妙な確信が芽生えていた。


 ――料理すれば、強くなる。


 そんな、ゲームのような現実の法則。

 俺はまだその一端にしか触れていないのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る