揺らぐ想いの繋がり

鈴葉🪻

〈プロローグ 春風が運んだ記憶〉

 春の風が吹くたびに、

あの日の記憶がふわりとよみがえる。

あのとき私は、まだ何も知らなかった。

『想い』という言葉の重さも、

『繋がり』の強さも。


でも――出会ってしまったの。

私にとって、世界を変えてしまうような人に。


振り返れば、始まりは本当に些細な瞬間だった。

教室の窓から差す西日、図書館の静けさ、

机に広がるノート。

たったそれだけの風景の中で、

少しずつ、少しずつ、心が揺らいでいった。


その揺らぎの意味すら、

あの時の私はまだ知らなかった。

ただ、この時間がずっと続けばいい――

ただ、そう思っていただけ。


あの頃の私に教えてあげたい。

抱えている難問とは、

数字とか英語なんかじゃなくて、

心で解くものなんだって。

それがどんなに複雑でも、

どんなに痛みを伴っても、

きっと解ける瞬間がくる。

だから、焦らなくていい、と。


春風がまた頬を撫でた。

今の私はもう、あの頃の私じゃない。

けれど、あの図書館で始まった想いが、

今も胸の奥で静かに息をしている。


――


あの春の光景は、今でも鮮明に覚えてる。

桜が咲き誇り始めたばかりで、

まだ肌寒い風が頬を撫でていた。

俺はただ隣に座ってた彼女の横顔を見て、

なんでそんな真剣なんだろうなって思っていた。


……まさか、

あの瞬間が俺の人生の分岐点になるなんてな。


何気なく差し出したプレゼントたち。

それらが、こんなにも長く、深く、

俺たちを繋ぐきっかけになるなんて思いもしなかった。


あの日から、いくつかの季節を越えて、

泣いて、笑って、迷って――それでも隣にいた。


もし、もう一度あの日に戻ったとしても、

俺はきっと同じことをするだろう。

また彼女にそれらを渡して、

同じ笑顔を見たいから。


春風が今日も吹いている。

彼女と出会った、あの日と同じ匂いがした。


――これは、

まだ『想い』が形になる前の、

少し前の季節の物語。

風が運んだ偶然と、

心に刻まれた『約束』の始まりだ。

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