第5話:不意の撤退と、依頼主の影

 コヨミの強大な力に、黒いあやかしは体勢を崩した。


「馬鹿な……これほどの神力、聞いていないぞ!」


「貴様の情報不足だ」


 コヨミは一閃。あやかしの左腕に深い傷を負わせた。


「今は退く! だが、必ず獲物はいただくぞ、巫女!」


 あやかしは路地奥の闇に身を隠し、提灯の赤い光も消えてしまった。


「……逃がしたか」コヨミは舌打ちをし、力を収めた。


 ハルカはすぐにサクラに駆け寄る。幸い、外傷はないようだ。


「よかった、サクラ……」


「フン。無様なものだ。さっさと病院に連れて行け」


 コヨミはそう言いながらも、ハルカがサクラを背負いやすいように、しゃがんで支えてくれた。


 病院でサクラが眠る中、ハルカとコヨミは待合室にいた。


「コヨミ様、あのあやかしが言っていた『依頼主』って誰なんでしょう?」


「人間だろうな。あやかしは利害で動く。今回の目的は、サクラの霊力だ。おそらく、依頼主は何らかの儀式にサクラの力を利用しようとしている」


「儀式……」


 ハルカは不安になる。コヨミはコーヒーのカップを片手に、静かに言った。


「神社に戻れば、奴の残滓から依頼主の手がかりを探れるかもしれん。……私の手柄を横取りするなよ、ハルカ」


 その言葉は、ハルカへの「お前も手伝え」というコヨミ様流の依頼だった。

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