モブに転生した俺が †漆黒の堕天使† 名義で原作アニメ1話の事件をSNSに予報したら、敵ヒロインちゃんが自演を疑われて涙目かわいい。

一ノ瀬るちあ@『かませ犬転生』書籍化

第1話 モブには、

 モブには、モブの戦い方がある。


 たとえば強敵が現れた時に「もうおしまいだぁ」と嘆いてみたり、「ぷいきゅあー、がんばれー」と応援してみたり。

 力を合わせて、ヒーローの覚醒を促す。

 これが俺たちモブの戦いだ。


 ……だけど、それが全てだろうか?


 他の戦い方は無いのだろうか。

 前世の記憶があって、ここがアニメの世界だと知っているちょっとだけレアなモブの俺はずっと考えていた。

 だから、思いついた。


 悪の組織の犯行計画、SNSに晒したろ。


 誤解の無いように否定しておく。

 これは善意100パーセントからの行動で、誰かを不必要に陥れようという意図は全く無かった。

 ただ、結果的に――


「誰でいやがりますのー! 私を †漆黒の堕天使† なんて痛い名前で広めた不埒ものはー!」


 泣き顔が似合う敵ヒロインちゃんが爆誕してしまった。

 それだけの話である。


  ◇  ◇  ◇


 1年前のことだ。


 目が覚めると病室で、「よかった、よかった」と泣き崩れる母がいたのをよく覚えている。

 どうして覚えているかというと、「あなたは私の子どもなの」と悲痛に顔を歪めるその人物に全く心当たりがなかったからだ。


 担当医が言うには、俺こと岡元おかもと椎太しいたなる人物は、事故に巻き込まれて記憶が混濁しているらしい。


 母を名乗る人物は、毎日面会に来て「焦らなくていいのよ、ゆっくり思い出せば」と繰り返す。

 だから俺は、必死に記憶を探った。

 そして努力の甲斐あって、なんと、奇跡的な確率で揺り起こした。


 ――そう、前世の記憶を。


(今生の記憶を思い出せよ!)


 さて、蘇った記憶が前世産と断定できる理由の一つは地名だ。

 俺の知る日本と現代では地名が全く異なる。

 神奈川県なんて存在しないし、代わりに恒凪こうなぎなんて県名があったりする。


 そしてもう一つの理由はまさにそれ。

 恒凪県が、アニメ『封神巫女ほうしんみこ』の舞台となる架空の都市だからだ。


(やべぇ、やべぇよ)


 普通の女の子が変身し、怪異と戦うアクションアニメ『封神巫女ほうしんみこ』は、忌箱きばこ(やべえ道具)やRINFONEリンフォン(やべえ道具)が、当り前に実在する世界だ。

 ぶらりと立ち寄ったドライブインで行方不明者が出たり、軽い気持ちで始めたリゾートバイトで悪霊に憑かれたり、そういうことが普通に起こる。

 当然、有象無象のモブどもが大量に死ぬ。


 Q.この先モブが生きのこるには?




「あわわわわ! あぶなかーっ、避けてーっ!」

「ん?」


 病院から経過観察の帰り道。

 カンカン照りの猛暑の中、答えの出なそうな悪問にうんうん唸りながら自転車で帰宅していると、脇道の坂の上から声がした。


 顔面を蒼白にした女の子が、ママチャリに乗り凄まじい勢いで突っ込んできている。


「みぎゃぁっ!?」


 その少女とママチャリが、路傍の小石に跳ね上がり、ふわり、と宙に舞う。

 鉄柵の向こうの茂みに墜落していく。

 呆然と見送った後、ハッとして駆け寄り声をかけた。


「だ、大丈夫ですか!?」


 いや、大怪我は免れないだろう。

 まずは病院に連絡を……、


「いたた、心配してくれてありがとうね。ばってん、手のひらすりむいたくらいやき、心配せんで」

「!?」


 俺は動揺した。盛大に動揺した。


 すさまじい勢いで墜落したにもかかわらず手のひらをすりむく程度で済むものなのか、という疑問からではない。

 茂みからもそもそと這い出てきた影に、強烈な既視感を覚えたからだ。


「あーっ! やばかやばか、お母さんに借りたママチャリ壊してしもたと! どぎゃんしよ。おばあちゃんとの約束間に合わんなってまうよー」


 茶色のロングヘアに、見覚えのある飾りのついたピンク色のカチューシャ。

 それに何よりこの訛り。

 ひょっとして、原作主人公?


「えーと、どこかに行く用事でもあったの? 俺この後用事無いし、乗せていこうか?」


 自転車の後ろを、震える手でぽんぽんと叩きながら声をかける。


「え!? いかんよ、二人乗りになってしまうやん」

「大丈夫大丈夫、アニメじゃよくある話だから」

「ここは現実とよ!?」


 あまりに非現実的な現実は、恐ろしくて直視できない時がある。

 俺はスッと視線を逸らす。


「あのね……おばあちゃんとの約束と道路交通法、どっちが大事なんだ!」

「ハッ、そうやね! おばあちゃんとの約束を破るわけにはいかんよね!」


 グッと両手の拳を握る少女。


(いや道路交通法だろ)


 ボケを流されてちょっと悲しい。

 まあいい。これでほぼ確信できた。


「あ、俺は岡元おかもと椎太しいた。頭文字を取って気軽に岡椎おかしい人って呼んでよ」

「わたしの常識が疑われるやなかですか!」

「まあまあ。それで、君は?」


 自転車の後ろに彼女を乗せて、ペダルを漕ぐ。


「あ、ごめんち。自己紹介が遅なってもうたね。わたしは空鳴そらなき燈火とうかたい」

「あ、やっぱり」

「やっぱり?」

「気にしないで。それで空鳴さん、目的地は?」

「えーと、天空寺てんくうじまでお願いできると?」

「了解」


 どうやら彼女は原作主人公で間違いないらしい。


(参ったなぁ)


 俺が彼女を原作主人公かもしれない、と思いつつも声をかけた理由は二つある。


 一つは彼女と交友を深めるため。


 たとえばだが、山荘に宿泊して名探偵と出くわしてしまったら被害者に名を連ねてしまうのがモブの宿命だ。

 しかしこれが、しばしば登場する準レギュラー的キャラだったら?

 原作に見逃してもらえる公算が高くなる。

 生き残る確率が高くなる。


 そしてもう一つは――、


(マジやべぇって。なんか黒い影が憑いて来てるって……!)


 彼女がとびきりの、霊媒体質――幽霊を誘致しやすい体質だからだ。


 実は、ソレが見えるようになったのは第一声、「大丈夫ですか?」と声をかけた時。


 しかも現状、彼女自身は霊感が絶無で、取り憑かれていることに無自覚なのがたちの悪さに拍車をかけている。


「いやぁ、助かったと。わたし、昔から(運が)ついてなかたい、こげん親切にしてもらえて嬉しか~」


 憑かれてる、大量に憑かれてるから!


 さらに悪いことに、霊は自分を認識しやすい人間を好むので、黒い影が、

『見えていやがりますの? 見えていやがりますよね!』

 と嬉々として俺に語り掛けてきている。


(ひぃぃぃっ、これ反応したらヤバいやつ!)


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