君がいた普通の日々

Science8

プロローグ

春の風が吹いていた。

それは、どこにでもあるような高校の通学路。

駅から校門まで続く坂道に、桜の花びらが舞っている。


僕はその道をひとりで歩いていた。

ポケットの中には、折り目のついた小さなノート。

ページの端は擦れていて、ところどころにインクの滲みがある。


“――また春が来たね。”


最後のページにそう書かれた文字を、指でなぞる。

あの筆跡を見ただけで、胸がきゅっと締めつけられる。


あれから一年。

彼女のいない教室にも、また春が来た。

笑い声も、放課後のざわめきも、去年と変わらない。

けれどその中に、彼女の姿だけがもういない。


それでも、僕はこの坂道を歩く。

彼女と一緒に見上げた空を、もう一度見たくて。


「なあ、舞桜。今日も空、きれいだよ。」


小さく呟いた声が、風に溶けていく。

桜の花びらが頬をかすめ、どこか遠くへ舞い上がっていった。


まるで、あの日の彼女の笑顔みたいに。


―― これは余命1年の宣告を受けた女の子 星影 舞桜と同じクラスの男の子 岡部 桜一郎が出会ってから別れるまでの物語

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