第3話 崩壊と羨望
アディショナルタイム、3分。
試合終了まで、残り1分を切った。
翼はペナルティエリア手前で、3人目のDFとGKの4つの目に見据えられていた。
完全な包囲網。
誰もがシュートはないと確信した瞬間、DFがボールを奪いにスライディングを仕掛ける。
その刹那、翼の眼が光った。
スライディングを数センチの誤差もなく躱すと同時に、右足を振り抜いた。
それは、単なるシュートではなかった。
俺には見えなかった。
あの4つの目線の隙間が、1本の通路のように見えていたのだろう。
翼はDFの足の裏、GKの脇の下、2つの間に存在するわずかボール1.2個分の空間を狙い撃ちした。
ボールは、彼の脚から離れた瞬間、一直線にゴールポストの内側へ吸い込まれていった。
1-0。
直後、勝利を告げるホイッスルが鳴り響く。
歓喜の渦。
チームメイトは翼に抱きつき、その喜びを爆発させた。
翼は、本当に楽しそうに笑っていた。
俺は、ベンチの硬い座席に座り込んだまま、立ち上がれなかった。
俺の50分間の限界と、3年間の努力。
そのすべてが、翼のたった1プレー、5秒間のプレーによって、無価値化されたように感じた。
俺が3年かけて積み上げてきた戦術理解力も、フィジカルも、司令塔としての役割も、翼の天賦の才の前では、砂上の楼閣だった。
親友。
そう呼び合った時間のすべてを否定してでも、俺はあの才能が欲しかった。
(……俺が積み上げた3年の努力の城は、お前の1歩で崩れ去った。)
俺は唇を噛み締め、誰にも聞こえない声で、最後の絶望を吐き出した。
親友なんていらない。
俺はお前になりたかった。
俺のすべてを捧げてでも、翼の1歩が、彼の1秒が、翼のすべてが欲しかった。
勝利の歓声と、湿った更衣室の空気の中で、俺はまだ、この羨望をどうすべきか、答えを見つけられずにいた。
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