第7話 君のための承認欲求

(りなだったらどんなふうにつけるだろう?)


銀次朗の中にいるりなはまだ彼女のすべてを表すには足りなすぎるほどのものだが、それでも彼はりなのための髪飾りを必死に作る。


赤いメッシュを際立たせるためにベースはブルーで作る。一見馬鹿そうに見える外見に反して知性を感じさせる彼女の内面を輝かせるためには何をしたらいいだろう?


銀次朗はもう一度生地を取りに行って和風の布を手に取り、さらにビーズの中から平成初期に流行った星のヘアピンも取ってくる。


(りなはむしろ…聡い自分を隠すためにあんな格好ばっかりしてるんじゃないのか?あの異空間で浮かないように)


もちろんこれはすべて憶測でしかなく、りなに直接聞けば笑い飛ばされることかもしれない。

しかし、銀次朗は”今”信じられることを精一杯することが唯一、を作るということにつながるのだと信じて疑っていない。


(りなは確か厚底のブーツを履いてたな…。それに合わせるとしたら歩くたびに揺れたりするほうが彼女の魅力を引き立てるんじゃないか?)


銀次朗は思うが早いか、青い布で作った花飾りに糸飾りを少しだけ追加する。彼女はすでに派手な外見をしているからむしろ控えめなデザインが良いと判断した銀次朗は、とにかく飾り立てすぎないようにすることを念頭に作っていた。


そして予定通り三十分後、それは完成した。


「麗子さん、できました」

「見せてくれる?」


銀次朗が恐る恐る髪飾りを麗子に渡すと彼女は睨みつけるようにじっと様々な方向からそれを見る。

部屋の中には異様な緊張感が走り、銀次朗は思わず座り込みそうになるのを必死に耐えて汗ばむ指を組み替えながら彼女の口から下される判断を待つ。


「いいんじゃない」


麗子はあっけらかんと言った。あまりに簡単に言うもので、銀次朗は思わず聞き間違いなのではないかと思ってしまった。


「あの…いいんじゃない、とは?」

「そのまんま。あんたの作ったこれ、良いと思うわ」

「じゃあ…!」


耳まで熱くなるのを感じながら、興奮する気持ちを抑えるために意識的に小さな声で麗子に問いかける。


「俺は採用ですか?」

「そうね」


その言葉に思わずガッツポーズする銀次朗の肩を麗子が叩く。


「だけど、まだまだ衣装作らせるには早いから。はじめのうちは雑用とかがメインでこき使うけど、良いね?」

「はい!これからよろしくお願いします」


銀次朗は高鳴る胸の鼓動に自分の本心に気づくことができた。


(そっか。俺、りなに自分の夢…というか欲求を重ねてたんだな)


銀次朗はずっと、衣装を作り続けていた。

もし、それが誰かのことを思って作りたいと願ってきたとしたなら、きっとそれはすべてりなのためだったのだろう。


りなに自分を重ねて、輝く姿を見たい。

そうすることで彼自身がこの先輝くことができると感じたから。


それに、彼は実に八年ぶりの思いが芽生えていた。


(自惚れかもしないけど…これから頑張りたいな。りなのために)


これからの努力を捧げるとしたら、あの少女に。

その思いが、銀次朗を前へと動かし始めた。

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