第2話 りな

「おい。ネカフェは満室だったぞ」

「わかってる、でもウチの部屋なら空いてるじゃん」


少しずつ冷静になり、今更恐怖が芽生えてきた銀次朗はなんとか逃げようと考える。しかし良い案が見つからないまま気づけば地雷とともに先程満室だと調べたネカフェにたどり着いていた。


「ネカフェって一人一部屋だろ?」

「大丈夫大丈夫。バレないから」


(なるほど。そういうことか)


やっと理解が追いついてきた銀次朗は地雷の後を素直についていく。ここの料金が確か2000円。つまり二人で泊まれば1000になるわけだ。バレたなら立派な犯罪だがそういう警備が甘いところを選んでいるのだろう。


(コイツらも知恵振り絞って生きてんだな…やり方は感心しないが)


少なくとも敵意が少し薄らいだ銀次朗は地雷の部屋へとついていく。


「はい、もうわかってんでしょ?1000円」

「はいはいわかったよ…ったく、お前もその頭もっと別のところに使ったらどうだ?」


すると地雷は聞く気がないかのようにその場に横になる。自分もさっき地雷にしたが、こうやって狸寝入りされるのは癪に障るものだ。そう思って銀次朗はプライドを捨てて地雷に話しかける。


「…今日は助かった。ありがとうな」

「別に…ウチだっていっつも一緒のやついなくなって困ってたところだから」

「いなくなったって…お前もそいつ見習えよ。ちゃんと学校行って…」

「ねぇ、なんか勘違いしてない?」


銀次朗が説教しようとすると地雷は起き上がって見つめてくる。地雷の目には何も写っていなかった。鈍く光る蛍光灯の明かりさえも反射しないほど、何も。


「…勘違いって?」

「そいつ、学校行ったんじゃないよ。あの世に行ったの」


銀次朗は何を言えばいいのかわからなくなった。

彼女の言葉の重さが、かえって現実味を帯びていないようにすら感じる。


「…ハハ。お前…だってお前らまだ…」

「自殺。この前電車止まったでしょ」


(人身事故…たしか四日前にあったな…)


まさかと思って大急ぎでスマホを開き、震える手でJRの情報を見る。


『――犠牲者は十代女性の…』


「…どうして死んだんだ?」

「どうしてって…ウチに聞かれても知らないし」


銀次朗はどうしようもないやるせなさの中で声を絞り出す。


「その子とは…友達だったのか?」


すると地雷はピタリと動くのを止める。


「さぁ…ただ割り勘仲間だっただけだし。…でもまあ、少なくともウチの方は友達だって思ってなかったかな」


(コイツらは…どんな思いで生きてんだ?)


銀次朗の中にフツフツと湧く疑問はどうしても地雷に聞くことができない。

それを聞いてしまったら、地雷もまた消えてしまうんじゃないか、そう思ったからだ。なんの関係のない人間かもしれないが、少なくとも地雷は銀次朗の一日の寝床を提供してくれている。

そんな彼女を無下には扱いたくないと銀次朗は思った。


「お前…名前なんて言うんだ?」

「ウチ?名前はねぇ…だよ」


りな…

その名前は誰がつけたのか、どんな意味が込められているのか。聞きたいことは山積みだがまだその時じゃない。


銀次朗の中で、今までに感じたことのない何かが芽生え始めていた。

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