第2話③ 元盗賊は口が悪い



「ショウはスキル持ちか?」

「分かんない。自分のステータスの調べ方ってあるの?」

「ステータスってなんだ? スキルは神様に聞けば分かるぞ」

「神様?」

「大きな声で天に向かって聞いてみろ」


――――なんだ、それ?


「えっと、お邪魔してすみません! 星乃将です! 俺のスキルを教えて貰えませんか?」

 大声で真っ暗な天井に向かって叫ぶのは、まぁ、なんとも恥ずかしい。


パンパカパーン!


『星乃将様、ようこそ旧世界ロンファイへ。只今の星乃将様のスキルは体力チートです。体力チートです。ごきげんよう』

「……今のが神様?」

「おう、女神様だ。話しかけるのは一日三回までにしとけよ」


――――食後三回の処方箋みたいな女神コミュニケーションだな


「ガルルのスキルは?」

「女神様、ガルル=ジャルのスキル開帳申請を致します」

 

――――女神様、上司かよ!


パンパカパーン!


『只今のガルル=ジャル様のスキルは火魔法と俊足です。火魔法と俊足です。ごきげんよう』

「ガルル、格好良いな。何か強そうなコンビネーションだな」

「元々盗賊だからよ。使えるスキルあった方が生存率高ぇだろ。その点ショウのスキルは羨ましいぞ」

「へへへ、でもその内魔法のスキル欲しいな。便利そうだし」

「スキルは利便性よりも死活問題だってば」

 

キュイ キュイキュイ!


 暗い通路を曲がるといきなり3匹の小さなモンスターが飛び掛かってくる。バスケットボールサイズのモンスターは丸く、硬そうな石に覆われている。

 それらは速くないが重そうな音を立てて直進する。

「はい、一つ目!」

 足を高く振り上げ、ちょうど足元のいい位置に来たモンスターを蹴る。


ゴスッ


 重くどっしりとした感触にその丸いのが軌道を描いて壁に衝突をする。

「ショウ、もう一匹出来るか⁉」

「はいよ!」

 足を再び振り上げる俺の横でガルルがまた何かを唱えている。激しい業火の音がしてモンスターの一体が炎に覆われる。ギーギー喚きながらそれが焚火のような匂いを撒き散らしながら燃え盛る。

 俺は残った一体を両手で掴み、強く壁に投げつける。モンスターの体の表面についていた岩が粉砕し、大量の小石や粉塵が舞う。最後には物凄く細い灰色のモンスターの亡骸が俺の手の中に残る。


ごほごほっ ごほ


「おい、粉砕するな! 肺がやられちまうだろ⁉」

「脆いモンスターだね」

「ゴーレムリンか? 脆くはねぇけどよ、お前の力が規格外なんだろ」

「え、ちょっと待て! これが、ゴーレム⁉ 小さいんだな!」

「いや、お前が考えているのは巨大なゴーレムな。こいつらはゴーレム系のゴーレムリン。小せぇけど何匹と一緒に行動しやがるんで面倒なんだよ。因みにお前が食べた干し肉はこいつ等だぞ」

「ゴーレムゴブリンか! 以外と美味かったぞ!」

「ゴーレムリンだっつーの! 美味くねぇよ!」

「別にゴーレムゴブリンでもいいんじゃない?」


カチッ ゴォォォォオオ


 言い争いをしている真横でトラップが発動する。壁の一部が陥没をし、火のジェットが噴出する。

 ガルルは物凄い速さで立っていた場所から飛びのく。俺は一気に地面に這いつくばり、笑いながらほふく前進で火のジェットの下を潜る。

「お前、本当に遊んでいるな」

「そりゃ人生は楽しまないと意味ないだろ」

「ショウは楽しみ過ぎだろ」

「それって悪い事なのか?」

「まぁ、死ななければいいんじゃねぇの?」

 更に奥へと進むと再び落とし穴に引っ掛かる。今度は床全体が抜け落ちる。

「うぉおおおぁあ⁉」

「ぅぎゃぁああ⁉」

 少し落ちただけで怪我はない。だが部屋に所狭しと詰め込まれたゴーレムリン達が俺達に手を伸ばしてくる。

「戦うぞ、ショウ!」

 元盗賊は長い剣を抜き、直ぐに近くのモンスターに斬りかかる。それを見て俺は大声で笑いだしてしまう。

「なぁなぁ、こいつ等全部倒したら干し肉いっぱい作ってくれるか?」

「はぁあああ? 生き残れたらそれぐらいしてやるわ!」

「約束だぞ!」

 俺は笑いながらその小さなボールサイズや中型犬ぐらいのサイズのモンスターの頭を掴み、全力で投げ飛ばす。


ドシャッ ガンッ


 一匹一匹壁に衝突する度に大量の小石や粉塵が飛び散る。

 

ごほっ ごほごほっ


 どんどん視界が悪くなってくるほどの粉塵に目がしょぼしょぼとしてくる。突然男が叫び出す。

「ぁああああ、もう我慢出来ねぇ! おい、お前、俺を抱えて壁よじ登れるか?」

「多分?」

「俺をここから出してくれたら干し肉くらい大量に作ってやりゃぁ!」

「約束だぞ! ゴーレムゴブリンの干し肉!」

「だからぁ、ゴーレムリンだって言っているだ……ろぉぉぉぉぉぉおお⁉」

 俺はガルルの胸倉を掴んでそのまま大きく飛び跳ねる。あの海での跳躍のように一気に体が持ち上がり、彼と一緒に壁を駆け上がる。

 再び上の廊下に出ると彼が一瞬無言になり、その後に爆笑し始める。

「ショウってマジでおかし過ぎるだろ!」

「え、ちょっとその言い方は傷付くなぁ」

「さっきと言葉が違うだけで俺りゃ同じ事言っているぜ」

 ガルルは落とし穴の中を覗き込むとまだ半数ぐらい残っているモンスターを眺める。

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