第34話 遺恨

 グローリーブライト社の再生紙ボトルは、草間理化の取引先を奪うだけでなく、

 業界でも話題になった。

 凍らせられるので、ジュース類を入れる容器にも積極的に使われた。それほど高温にならないが、熱燗なども心配なくできるお酒の容器にも採用された。

 草間理化との訴訟は、賠償金を僕に支払うことで和解し、販取引業者が困ることを考えて、販売差し止めは譲歩した。


「優作さん、来客よ?」

 榊さんが、厳しい顔で知らせてきた。

「誰ですか?」

「尾崎周作よ。追い返す?」

「いえ、会います。会議室へ。」

 安手のスーツに、かつての敏腕経営者の姿はなかった。

「なぜ、俺をだました。兄貴も特許権利者だったことを隠して俺を嵌めた。」

「僕は、権利者だったことは知らなかった。」

「じゃあ、あの女が俺を嵌めた?」

 周作は訝しそうに顔を歪めた。

「涼子と不倫関係にあったのに裏切られたのか?なぜ、僕から何もかも奪うようなことをした?」

「簡単さ。俺の方が優れていることを証明するためだ。兄貴は科学研究だとか理系の才能があるとか、小さいころからチヤホヤされやがって。おれはそれを覆すのを喜びにして、何もかも兄貴を上回るようにしてきた。それなのに、兄貴を社長に・・・だから復讐をしたというわけだ。ハハハ。」

 やっぱりそうか。

「それは、違う。親父は、俺に商売の才能がない、理科好きの俺を別な道で生かそうと大げさにほめていたんだ。だから最初からお前を跡継ぎに考えていた。」

「嘘をつくな!だったら、なぜ兄貴を社長に据えたんだよ。親父は!」

 俺は、自分の考えをぶつけた。

「たぶん、親父の思いつきだ。」

「あ?思いつき?」

「そう。僕を社長にしたら、なにか面白いものを発明してくれるんじゃないかっていう。だけど、大学の研究室にいる僕を引っ張るには社長待遇しかないって思ったんじゃないか。一番期待をかけ、信頼しているお前が、どう思うかなんて考えつかなかったんだろう。」

 周作は、怒りを浮かべなら、

「俺は、親父の思いつきで、踊らされたっていうことか!」

「そうなる。」

「それで、俺は手を汚した・・。」 

 

 周作は、独り言をつぶやくと、フラフラと立ち上がり、無言で去っていった。






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