第9話 一緒にお風呂なんてムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)

「ちょっ…!美月、何してんの!?」


美月がぐしょぐしょの上着を脱ぎ始める。


「こんなに濡れてるんだから、身体ちゃんと温めないと。ほら、愛ちゃんも脱いで」


「あ、うん、分かった。…て、え、何で!?」


「一緒にお風呂入るからに決まってるじゃん」


今から美月とお風呂入るの!?


まずい、心臓が過去一バクバク言ってる。


好きな女の子の裸って…緊張と興奮と遠慮で頭がおかしくなりそうだ。


そんな私を他所に美月はすでに下着姿になっていた。今日は黒い下着ですごいセクシーだ。


てか相変わらず脱ぐの早いよ!?


やっぱり一緒にお風呂はちょっと躊躇いが…なんて思っていたのも束の間、美月が私の服を手をかける。


「はい、愛ちゃんも脱ぐ。ばんざいして」


「いや、ムリムリムリ!」


「今はそんな場合じゃないの!分かって!」


美月は子供を叱る母親のようにそう言うと、半ば強引に私に両手を挙げさせる。


「~~っ!」


そのまま上も下も服を脱がされ、美月の同じ姿になってしまった。


「ほら、愛ちゃん入るよ」


そう言うと美月は洗濯機に下着を脱ぎ捨て、お風呂場へと入っていった。


美月に手招きされ、私も抵抗と下着を洗濯機に置いてお風呂場のドアをくぐる。


浴室は想像より大分広かった。


2人で入っても狭いどころかまだスペースが余っている。


灰色なタイルの壁には1つたりともカビが生えていなくて、不気味なほどに清潔だった。


浴槽には、コポコポとお湯が張られていく最中だ。


白い湯気に包まれたお風呂場の中で、裸体の美月はシャワーを浴びていた。


それは、白い陶器の人形のようで美しかった。改めて脚長いし、顔ちっちゃいな。


美月は私が入ってきたのを確認すると、シャワーを手渡し、シャンプーを手に取る。

艶のある黒い髪に泡を纏って、丁寧に洗っていった。


手渡されたシャワーを肩にかけると、少し熱い。


しばらく温まると、私もシャンプーし始めた。


「…私も、美月みたいな髪になれるかな」


「なれるよ~。別に私だって、何か特別なことしているわけじゃないし」


シャンプーを流した後の私の髪に、美月が触れる。


「ちょ、ちょっと…」


「やっぱり。愛ちゃん、整えればすぐに髪さらさらになるよ」


その言葉と共に、美月はトリートメントを手に取り、私の髪を撫で始める。


しばらく、頭皮や髪にトリートメントを塗り、手で馴染ませる。


「よし、これで大丈夫!」


「ありがとう…」


自分の髪に触れると、ツヤツヤした感触が伝わってくる。


今までの自分の髪とは全然違う。


さすがモデルさんだ…と素直に感心してしまった。


その後身体を洗い終えた私たちは共に浴槽に浸かる。


浴槽もお風呂同様広いため、2人で入る。


張られた水にちゃぽん、と波紋が広がっていく。


足を伸ばすと美月に当たっちゃうから、体育座り。


美月が入れた桃色のバスソルトがお湯の中で広がり、バラのような芳醇な香りが鼻に入った。


美月がお風呂場の電気を消し、ランタンの間接照明に切り替える。


お湯の上をランタンがすーっと流れ、私たちを照らし出す。


「あ~すごい良い湯」


「そう、私のお気に入り」


疲れと共に緊張もほどけていく。


なんだか星空の下みたいでムード満天だ。


しばらく雰囲気とお湯を楽しんでいると、少し顔が火照ってくる。


「ねえ、愛ちゃん」


美月が話を切り出す。


その黒い瞳はどこまでも真剣で、澄んでいた。


「私、愛ちゃんのこと好きなの」


「……」


「愛ちゃんの…仕草が好き、からかった時の照れてる顔が可愛らしくて好き。

愛ちゃんの声が好き、いつも元気をもらえる。

愛ちゃんが、いつも私を想ってくれるところが、大好き」


そう言うと、美月は優しく私の肩を掴む。

肌が触れ合い、私たちは浴槽の中で密着していた。


「愛ちゃん…」


ゆっくりと美月の顔が私へと近づいていく。


艶めいた唇がランタンに照らされ、薄く光を反射する。


美月が何をしようとしているのかは、鈍感な私でも想像がついた。


美月の頬が、赤くなっているのが分かる。


美月と私の距離は数センチ単位まで近づいていた。唇と唇が、触れそうになる。


そのまま流れに身を任せても良いかもしれない。


初めて出会った大切な人だから、私の初めてを差し出してしまっても…


一度はそう思った。けど──


「……愛ちゃん、何で…?」


2人の唇が触れる寸前、私は美月の唇を人差し指で受け止めた。


ぽつぽつと、私はゆっくり言葉を選んで、紡ぎ始める。


「私も、美月のことは好き」


「……じゃあ…」


「けど、私はまだこういうことは早いと思う」


今、胸の奥に熱いものがある。


それが胸の奥から溢れ出し、涙になりそうなのを堪える。


「私、もっと色んな美月を知りたいの。


友達として、良い面も悪い面も知って、それでもっと深い関係になっていきたい」


美月はじっと動かなかった。


水がシャワーヘッドから滴る小さな音だけが響き渡る。


「それで…ちゃんとした形で付き合ってから、初めてをしよう。

私は、もう少しだけ美月と友達でいたい」


私はそう言うと、大きく息を吐く。

これが、私の伝えたかった思いだ。


少しのぼせてしまったのか、頭がくらっとする。


その言葉を聞くと美月は嬉しそうに、けれど悲しげな瞳で微笑んだ。


「…そっか。それが愛ちゃんの気持ちか」


美月は、下を向くとそう告げた。


けれど、すぐに顔を上げ


「じゃあ…私もそれを受け止める。

いつか愛ちゃんを振り向かせて、正式に付き合ってもらうから!」


私に向かって、そう声高く宣言した。


「~~っ!ちょっと、ここで告白宣言!?」


「えへへ。これで愛ちゃんは私のことを〈恋人候補の女の子〉として見てくれるでしょ?」


「…っ!確かに…!」


その発想はなかった。


それに驚くと共に、美月の関係はこれからも変わらないんだという事を知った。


私は、美月の前に手を出す。


「じゃあ、これからもよろしくね。


「うん、こっちも改めてよろしくね。


お互いの手をぎゅっと取りあう。


お湯の熱さのせいか、恋への胸の高鳴りか。


どちらかは分からないけれど、触れた美月の体温はいつもよりも高く感じた。


そしてこの日、この雨の夜が、美月と最後に笑い合った瞬間だった。





****

次回──第10話 りせちゃんって誰?(仮)


美月の嫉妬が遂に芽生え始める。

それが崩壊のきっかけとも知らずに。


──


最後までご覧いただきありがとうございます!


美月と愛の結末が少しでも気になる方は⭐︎やコメントを残していただけると、大変励みになりますので、よろしくお願いします。

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