8 助けてよ
「誰だ」
俺の背後で気配がした。
足音は頑張って隠している感じがしたが、隠せていない。
剣を抜き、音のした方向に向かう。
そして、音の発生源を見つけた。
「女?」
「こ、殺さないで」
日本人か?
俺と同じくらいの年齢の女がいた。
「お前次第だ。まず武器を捨てろ」
「そうすれば殺さないでくれますか?」
「お前に害がなければな」
女は腰にあった銃を地面に置いた。
銃を選択したのか。
これでちゃんとモンスターを倒せたのか聞きたいけど。
ぐ〜
腹の音が鳴った。
俺じゃない。
ということは、俺の目の前にいる女の音だ。
「なにかご飯を食べさせてもらえませんか?」
図々しいなこいつ。
助けを求めれば誰かが絶対に助けてくれると思っているのだろうか。
俺が施しを与える必要はないが、検証にちょうど良いかもな。
「わかった」
適当に草木を集め、火をつける。
そして、アイテムからゴブリンの肉を取り出す。
その肉を火で焼く。
「ショップで米が買えるようになっただろ。なんでそれを食わないんだよ」
「えっと、ポイントはマッチと水に使っちゃって」
マッチと水で4Pか。
「そのマッチと水のポイントはどうやって手に入れた?」
「夜になってゾンビが現れたんですけど、それを4体倒しました」
ゾンビか。
そりゃ食糧はないわな。
腐肉は流石に食えんだろうし。
てか腐肉って何に使えるんだよ。
「それで、マッチをつけて焚き火にしてたらゾンビたちも寄ってこなくなって、なんとか生きています」
「倒した方法は銃か?」
「そうです。頭に1発当てたら倒せました」
銃でもゾンビには有効か。
まあ弾が必要なので剣の方がいいだろうが。
「スキルは何を持っている」
「鑑定と暗視と反応強化と命中制度です」
命中制度?
俺はそんなの持ってないけど。
「命中制度とはなんだ?」
「銃を当てやすくなるスキルです。最初から持ってましたよ?」
なるほど。
俺の身体能力強化みたいな感じか。
銃に合ったスキルが最初に貰えたのか。
銃は当てられるように命中制度で剣は剣がちゃんと振れるように身体能力強化と。
そんな会話をしていると、肉が焼けたようだ。
「ほれ」
俺は焼いたゴブリンの肉を渡す。
「ありがとうございます」
さて、ゴブリンの肉は食べても大丈夫な肉なのか。
クソまずいとかだったら笑えるんだけどな。
女はゴブリンの肉を食い始める。
普通に食ってるな。
「美味いか?」
「普通の焼いた肉って感じです。なんの肉ですか?」
「秘密だ」
どうやら普通に食べれるらしい。
後で体調が悪くなるとかじゃなければいいけど。
まあ、知りたいことは知れたし、そろそろ離れるか。
「じゃ、俺はそろそろ行くから。お前も頑張れよ」
そう言って俺は立ち上がる。
「え?行っちゃうんですか?」
「当たり前だろう」
この女は何を勘違いしているんだ?
俺は方針も定まったし、先を進みたいのだけど。
「あの、一緒に行きませんか」
「断る」
「どうして...」
「メリットがないからだ」
メリットが何一つない。
足手纏い、タダ飯食い、信用できない。
「一緒にいた方が安全ですよ」
「安全になるのはお前だけだ。俺は常に背後も警戒しなきゃいけなくなる」
こいつがいつ攻撃してくるかわかったもんじゃない。
こういう自己中心的なやつは怖いからな。
「私があなたを攻撃すると?」
「可能性の話だ。だけどそれが0じゃない限り、信用することはできない」
女は苦虫を噛み潰したような顔をする。
だが、いきなり顔を上げて、
「あ!私はあなたに私のスキルの情報をあげました。あなたからは貰ってないのに」
突如そんなことを言ってきた。
まあ、俺の素直に思ったことは『何を言っているんだこいつは』だった。
「お前が自分の情報を明かしたから何だと言うんだ」
「メリットはそれで良いじゃないですか」
メリットの意味知ってるか?
既に知っているのだからメリットもクソもない。
まあ少しだけ会話を合わせてやるか。
「一つ、俺はお前にすでに肉を無償で与えている。一つ、そもそも俺は別に対価としてその情報を貰ったわけじゃない。一つ、お前のその程度の情報に何の価値がある?」
初期から貰えるスキルにゾンビを倒した時に貰える暗視とモンスターを倒した時に貰える反応強化だけ。
本当に価値がない。
せめて参加者初のスキルとか俺が知らない入手経路のあるスキルとかだったら対価になったかもしれないが。
まあ、食料に関しては俺が実験したくてあげただけだが。
女は悔しさを滲み出しながらこちらを睨んでいる。
なんでこんな目を向けられなければいけないのか。
実験でも食料なんて与えなきゃよかったかもな。
「助け合うのが普通なんじゃないですか」
こいつはまだこんなことを言うのか。
そろそろ諦めて欲しいんだけどね。
「このゲームは殺し合いでもあるんだぞ?それに、例え助け合いが普通だとしても。俺はお前に助けられる未来が見えない。そういのは助け合いじゃなくて寄生って言うんだよ」
もう面倒になってきたな。
「じゃあな」
俺は強引に会話を切って女から背を向けて歩き始める。
すると、女の気配が動いた。
地面に置いてある銃の方向に。
本当に思いついたことを考えもせずに行動するような奴だな。
「お前が銃を握った瞬間、俺はお前を敵と見なす。先に銃を構えたとしても俺の剣がお前に届く方が早い」
これは事実。
例え、俺が後ろを向いて剣を抜いていない状態で、銃を向けられたとしても、俺は銃を避けて殺すことができる。
昨日だったら無理だったが、ボスゾンビを倒して様々なスキルを手に入れた俺なら可能だ。
「敵になるなら俺は確実にお前を殺す」
女は動けなくなっていた。
結局はこれだ。
だから信用できない。
「助けてよ…」
俺はその言葉を無視して進む。
「このひとでなし!」
助けてくれないとみるや、銃を握ろうとした女に言われたくねー
女は結局俺がいなくなるまで動くことはなかった。
とんだ災難だったな。
やっぱソロが一番だ。
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