早く宇宙に来て欲しい宇宙人vs隙あらば内ゲバする人類

「スペアリブ、ブリスケット、プルドポーク…」

今日の仕事が終わったら絶対に食べると決めているBBQメニューをつぶやきながら仕事をこなす。


吾輩はオーク汗国前FTL文明保護観察官。


新たに保護国となった惑星地球のアメリカ合衆国担当観察官として赴任してそろそろ半年となる。


ここの所は地球に赴任希望を出したことに対して、早まった! やめときゃ良かった! という後悔の思いと、いや正解だった気持ちが相互に襲ってきて気分がバニラシェイクみたいな状態だ。


吾輩の頭痛の種は目下日単位でもめ事や厄介ごとを引き起こす問題児、保護対象であるアメリカ合衆国のことだ。


半年前の初期交渉から今までのことを思い起こす。







元々、吾輩達オーク汗国の強襲部隊は予備案だったのだ。


地球の通信を傍受して行った事前の調査では、非統一惑星とはいえ全惑星的な利害調整機関が発足しており、核兵器も一度は削減に成功している。


エルフなどの銀河連邦初期構成国の歴史に照らし合わせれば、遠くない未来に惑星統一の可能もあるとイルカニアンの政治学者は見ていたほどだ。


だからイルカニアンの主導する友好的な態度で最低限の使節団での接触と、人類統一して加盟してねという声明で数年程度の時間をかければ統一してからの加盟がなされるという見込みの元、まずはイルカニアンによる接触がなされた。


我々は万一のために核戦争を防止するための、危ないおもちゃを穏便に取り上げるための保険として、火星上空でステルス処置をしていたうえで待機しながら地球から傍受した映像をのほほんと見ていたのだ。


イルカニアンの目論見通り、接触直後に地球統一政府について話し合う人類。


良い傾向だ。以前のベルカ人の失敗は確実に我々のマニュアルを進化させている。


ちょっと揉めだす地球人。

…ま、まぁ数千年統一政府がなかったんだ。最初はそういうこともある。



あ、地球統一案…否決されちゃった。



失敗は誰にでもあるよ、また頑張ろう。一回失敗したくらいであきらめないで人類!


有力な大国たちが自分たちだけで入れて! してきた。

あー…うん、それはだめなんだ。ごめんね。

前ので失敗しちゃって…。


ちょっと雲行きが怪しいぞ?


イルカニアンさんから通信? どうしたの?


………………複数の大国が核兵器の使用準備してるぽいから予備案の準備してって?




なんで????





強襲揚陸部隊の緊急発進準備! いや、もう緊急発進だ!

エルフさんは核キャンセラーの散布準備とブラックホール炉の暖気! 急いで!


吾輩はイルカニアンさんの所と交代して地球に急行してダメだよしてくる!




アメリカと中国に強襲部隊ばれた。

ちょうど吾輩が国連本部で個別加盟を目指すときはいったん保護国化するよ? という内容を説明しかけている時だった。


常任理事国と呼ばれている地球の大国たちの代表団の目が据わったのを覚えている。


ちがうの! 統一してくれればいいの!


できないときの『保護』も一時的なものなの!


君たちの言語で翻訳された『保護国』ってのはね、君らがやった『保護国』じゃなくて本当の『保護』なの! 野生動物の保護とか不良少年の更生のための保護とかそういうの!


お願い信じて!








信じて、くれなかったなぁ。


予備案だったおもちゃ取り上げ作戦核分裂の無効化は決行。

なんとかおもちゃ核兵器は取り上げることができた。


原子力発電が無効化したことによるエネルギー不足を惑星間航行船のブラックホール発電で代替している現状を盾に保護国化を迫り、張子の虎のでかいだけの輸送船を各国上空に屯させて形だけの威圧。


そしてオーク汗国がアメリカ合衆国の宗主国になった事を受けて、吾輩はアメリカの前FTL文明保護観察官に赴任。


表向きは笑顔の大統領。

絶対寝首を搔いてやるという意思を感じる。頭が痛い。


エルフさんの方はTOPが一時行方不明だったが最近友好的な秘書官が付いたそうな。うらやましい。

吾輩の方も有能そうな秘書官が付いたが、時々背筋が寒くなる時があるのだ。


やめよう? 君たちは知らないだろうけど、君たちの小火器程度だとオーク族あまり深手は負わないよ。




まぁ、ゆっくり関係を深めていこう。

吾輩達も一つの星の中で暮らしていたころはこんなもんだったと聞くし。人類もきっとわかってくれる。


どんどん物資を与えて、技術も与えるよ。


ほら、想像してご覧? 頑張ればすぐ君たちは宇宙に一人で出てこれるよ?


文明同士で争う理由も宇宙ではあんまりないんだ。


頑張ろう?


そして早く宇宙太陽外においで?







アメリカ君。ちょっとアメリカ君。


吾輩たちがあげた物資で地下深くで何してるのかな?


うん。これ核兵器だね。核キャンセラーの効果を吾輩たちの物資で無効化する技術を作ったんだね。

頑張ったね。もうちょっと努力の方向性を変えてみないかい?


バレてないと思ってるみたいだね。バレてるよ。


どうする…? これ指摘するとやけくそになって使いかねない…。


ねぇエルフさん、どうすればよいと思う?


『「めっ」てしたらいいんじゃないかしら?』


投げやりー…。


『すでに場所もわかってるんだし、大した被害にはならないでしょ?』


たしかに数は少ないから取り上げるのに失敗したところでそんなに酷い事にはならないだろうが、それでも北米の半分はヤバイことになる威力はありそうだ。

軍事的にも外交的にも暴発は避けたい。



うーん…。


あ、そうだ。今テラフォーミング中の火星、ちょっと早いけどあげちゃおっか。


アメリカは開拓精神旺盛な国だし、最初にあげてみる国としてはぴったりだろう。


それの交換条件として核はだめだよ? ってなだめればいうことを聞いてくれるのでは。


まずは、もう星がほしいか大統領に聞いてみようじゃないか。






中国の国連大使が凄い形相で乗り込んできた。


最初に星を貰うのであればアメリカではなく我が国だろうと。


いや、吾輩君の国の観察官じゃないし。


君の国の観察官も今準備してると思うよ?


次の定例会であったら聞いてみて、それとなく教えてあげればいいか。



中国君もそれでいいよね。

…うん? あぁ、核兵器のことね。うん知ってる

そんな国が最初に星を貰うのはおかしい? まぁ、それは、うん、そうね。




そんなことがまかり通る前に我が国はこの事実を暴露する準備がある? ちょっと待って、それは困る!



わかったわかった!吾輩たちの方で用意していた火星は君が先に貰えるようにちょっとそっちの観察官と調整するから。ね?

それでいいでしょ?






………


…………



数日後、インド国連大使、迫真の乱入。

「最初に星を貰うのは一番人口の多いウチインドだろう!?」とのこと。



あと中国も隠れて新しい核兵器作ってたらしい…中国君????



激怒する中国とアメリカ。お前は関係ないだろすっこんでろ!!という反応。


でも別にそれで中国とアメリカが協力するわけでも無い。全員ギスギス中なのである。


つまり、


インドに初めに星をあげる→アメリカ国民と中国国民がぶちぎれ

アメリカに初めに星をあげる→インド国民と中国国民がぶちぎれ

中国に初めに星をあげる→アメリカ国民とインド国民がぶちぎれ


というわけだ。



……


………


もーーーーー!!!!






「あるから!全員分あるから!!そんなどうでもいいことで争うんじゃない!おもちゃの取り合いで喧嘩する幼児かお前らは!!」








吾輩は叫んだ。


別にアメリカだけにあげるって一言も言ってないじゃん!


君たちの分は君たちの担当国が多分準備してるって! 欲しいなら聞こうよ! なんで初手こっちに脅迫なわけ??



どうすりゃいいんだよこれ。


秘書官に頼るのはできん、一応あいつは利害関係者アメリカ国民だしな。


ダメもとでエルフんところの秘書官の意見を聞いてみた。


『じゃあアメリカにあげるのをいったん延期して、その間にインドの担当国と中国の担当国に別の惑星のテラフォーミングを間に合わせてもらえばよいのでは?』

『アメリカ向けには、核開発してるだろお前?悪さするなら星やらんぞ。と言えば引いてくれるんじゃないかと』


確かに元々は核兵器(おもちゃ)との交換用カードに予定を前倒しして用意していたのがこのテラフォーミング惑星だ。


だが中国とインドはそれで納得するか?




「閣下、インドと中国の国連大使がいらっしゃいました」


現地雇用の地球人秘書官の声に思考の海から戻ってくる。


納得、するかなぁ…?無理じゃないかなぁ…。







……


………


納得した。





……それでいいなら初めからそう言えーーーー!!







★ミ





ようやっとインドと中国の代表が本国の観察官に確認して、自国も同時に貰えることが分かり、「まぁ同時なら…」といった顔でしぶしぶ納得して帰っていったのと同時にドカッと椅子に腰を下ろす。


つ、疲れた。


でも一旦これで問題は解決だな。



…………………。



でも吾輩知ってる。どうせこの後もすぐ揉めるって。


どうせ君たち割り当てられた惑星の大きさとかで揉めるでしょ? 君たちはそう子だろう。


その時はお替りを投げつければよい。


でも最初からお替りがあるってのは言えない。だって絶対もてあますから。


管理が放棄されたテラフォーミング惑星は大体厄介ごとが発生するからなるべくなら避けたいのだ。


だからこれ以上は現時点ではどうしようもないのだ。


「よし!終わり終わり!吾輩はもう今日は仕事はやらん!飯を食いに行く!」


「お車の準備はできております閣下」


宣言すると、秘書官はもう準備をしてくれていたようだ。


「うむ!」


どうしようもないことを考えても時間の無駄だ。一旦は解決したのだし自分へのご褒美に行こうではないか。


そう、予約しているお気に入りのレストランで前菜の真っ黒なスペアリブにかじりついてから黒いブリスケットとホロホロに崩れたプルドポークたっぷりのバーガーを頬張ってからコーラをガロンで流し込むのだ。


「スペアリブ、ブリスケット、プルドポーク、コーラ!」

希望の言葉だ。唱えるだけで悟りを開ける気がする。

車に乗り込んだ吾輩の頭はもう厄介ごとへ割く容量はゼロ。グリルの中で吾輩に食べられるために待っているBBQ達のことでいっぱいだ。




思えば赴任してから何度も挫けそうになったが、スペアリブとブリスケットとプルドポークとコーラがすべてを癒してくれた。


地球赴任がここにきて正解と思う理由がこれだ。


なんといっても飯がうまい。


今までの標準食は何だったというレベルでうまいのだ。


週一で腹がはちきれるくらいに食べないと震えが止まらなくなってしまう。


これは別に吾輩が何かおかしいわけではない。

つい先日、給料の一部を使って母星の後輩に送ったブルドポークは5分で殴り合いの奪い合いになったらしい。


緊急通信で連絡してきたボコボコになった後輩を見たときは「アホかなこいつ?」と思ったが、すぐ自分がその立場だったら同じことをしていたと思い、その言葉は喉からは出なかった。


二の句にはブルドポークのお替り懇願と「人員足りてますか!?増員時は小官を!」という売込み。


おう、いいぞ! と快諾したところすぐに増員(イケニエ)が集まった。


馬鹿め! 確かにうまい飯はあるが地獄もあるぞ!!



そうだった、増員(イケニエ)来るんだった!



「スペアリブ、ブリスケット、プルドポーク、コーラ!」

店に向かう車の中。苦労が減る算段が付いていたことを思い出した吾輩の気分は急上昇。


今後も苦労はあるだろうが後輩(イケニエ)が来るから問題ない!


希望の未来へレッツゴーだ!










彼は知らなっかった。


ご機嫌な彼の横では、同乗している地球人の女性秘書官が彼に熱い視線を向けていることを。


数か月後、今度はエルフ付きの秘書官に涙目でプライベートの相談しに行くことになることを。

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