第四話:清浄と絶望の隔離
美咲が連れてこられた神社は、街外れの山奥にあった。そこは、千年間、水龍の臣下が代々守り続けてきた結界に守られた聖域だ。
「ここが、我々の拠点となる『水守の
「…帰りたい」
美咲は、布団の上で膝を抱え、ただそれだけを繰り返した。
「龍神様」
「訓練なんて、いらない」
「いります!」
その言葉に、美咲は顔を上げた。「災厄……そうだよ。母さんにも、近所の人にも『化け物』だって言われたんだ。もう、私には居場所なんてない」
その日から、美咲の強制的な訓練が始まった。
「訓練の第一段階は、『
美咲は水に手を浸し、目を閉じた。集中しようと努めるが、頭の中には母からのメッセージ、
(憎悪?絶望?…そんなもの、あなたたちが私から全部奪ったくせに!)
その感情の乱れが、美咲の手を浸した滝壺の水を、激しい水圧で美咲に向かって噴き出させた。
「ぐっ!」
水圧は美咲を叩きつけ、岩にぶつけた。
「駄目だ、龍神様!感情に支配されすぎている!水は、清浄な力を宿すものです。あなたの心に憎悪や絶望がある限り、その力はあなた自身を傷つける!」
美咲の心は、訓練への抵抗と、自分を『保護』と称して隔離する臣下への激しい怒りに満ちていた。訓練は一向に進まず、美咲の肉体には水圧による小さな内出血の跡が増えていった。
その夜。
美咲は、自分が持ってきたボロボロの学生鞄を開けた。中には、参考書、使い慣れたペンケース、そしてクラスメイトとの集合写真。
(もう、私の居場所はここじゃない。でも、まだ…まだ、学校に行けば、全部元に戻るんじゃないか?)
美咲の理性は「無理だ」と叫んでいるが、心は日常という幻影に強く囚われていた。
美咲は立ち上がった。窓の外の池は、
「龍神様、どちらへ?」
静かに見張っていた
「…少し、散歩に」
「ご無用です。この場所は結界で守られている。外に出れば、あなたはすぐに
「関係ない。私、まだテストの範囲、貰ってないから…学校に、行きたい」
美咲の目は、切実な日常への最後の執着を湛えていた。
「…あなたの日常は、すでに家族との縁が絶たれた、あの夜に終わっています。ですが、その執着を断ち切らねば、訓練も進まないでしょう」
「行ってもいい。ですが、
美咲は頷いた。鞄を固く握りしめ、美咲は神社を後にした。彼女が向かう先は、初恋の相手が待ち構える、日常が崩壊した後の学校だった。
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