第30話

 巫女さんがシャランシャランと鳴らす鈴の音って心地いいよね。

 うん、何が言いたいかといえば、目の前には、巫女さんの持つ鈴、神楽鈴のような形で小さな白い花が咲いているのを見つけたのだ。

「これ、もしかして……」

 写真でしか見たことがないし、そもそも味も知らないんだけど……。

 小さな少しランに似た花をちぎって口に入れる。

「辛っ!」

 白い花なのに、唐辛子みたいに辛いっ。すごく、見た目とのギャップが。こんなの料理に使われてても見た目で辛さに気が付かないよ!怖っ。

「これ、やっぱり、もしかしなくても、あれじゃないかな?

 引っこ抜こうとして力をいれたけど取れない。

 手で土を掘り返す。 汚れたってかまうものか。

 必死に掘ると、思った通りの見た目の球根……いや、地下茎なんだっけ?どっちでもいいや。

 3つ掘り出して、ヴァルさんのところに戻る。

 すっかりオークは肉になっていた。

 いや、オークは雑に肉をえぐられてた。食べる分以外はゴミとばかりに……。

「あ、フワリ無事だったか。よか……いや、どうしたんだ、泥だらけじゃないか!何があったんだ?」

「これを採ってたの、見て、すごいでしょ!」

 ニコニコと土まみれの手でヴァルさんに見せると、思ったような反応が返ってこない。かわいそうな顔をされた。

「痩せた芋だな……。街に行ったら、もっといい芋を食べさせてやる」

 その表情にも言葉にも優しさが溢れてるんだけど、一緒に喜んでもらえないのがちょっと悲しい。知らないのかぁ……。

「そうだフワリは脂身は食べるか?嫌いなら全部切り取るが」

 脂身?

「オークって脂身あるんだ」

 切り取られた肉に目を向けると、半分脂身って状態のブロック肉が置いてあった。

「何を言ってる、この辺のオークなんて半分脂だぞ?」

 そうか。メタボな豚の魔物だもんなぁ。っていうか、この辺じゃないオークはまた違うの?

「エルフは脂身を捨ててたのか……」

 私の口には入らなかったのは当たり前だけど、脂身を食べてる村人いなかったよね。嫌いなのか毒だと言われてるのか……。

 脂身を食べるとエルフもメタボになるのか気になるところだ。

「ん?エルフは脂身を捨てるってよく知ってるな」

 しまった。

「あ、はは、もったいないことをするって言ってた人がいて、だって、脂身っていろいろ使えるでしょ?」

「ああ、そうだな。ドワーフは明かりに使うもんな」

「そうなんだ!ヴァルさんも物知りだね!」

 そういえば蝋燭とか作れるんだよね。ドワーフは地下で生活してるから明かりは確かにいっぱい必要そう。

 でも油じゃなくて脂で作ると焼肉っぽい匂いがするらしい。そんな匂いを嗅いで生活してたら酒も進みそうだ……。

「あ、いや、うん……で、もったいないって言ってた人間は脂身を何に使うんだ?」

 え?まずいぞ。この世界の人間って脂身を何に使ってるんだ?

 オークの脂身と言えば、ラードみたいなものかな?

 ラードを使って焼くお好み焼きはおいしいよね。

 まぁ、鉄板も無ければ、お好み焼きの材料となるものを1個も持ってないんだけど。

 あるのはオーク肉。たぶん豚肉っぽい。豚肉で作るならとんかつ。

 でも、とんかつを作ろうにも衣を作る材料が……。

 手元にあるのは、野蒜とさっき採った……。

「あ、ヴァルさん、鳥、鳥のお肉が欲しい!鳥!」

 急に袖を引いた私に、ヴァルさんが首を傾げた。

「なんだ、オーク肉は好きじゃなかったか?それともあれを見たら食欲が失せたのか?」

 解体されたオークは確かにえぐいけど、そんなことで食欲が失せるほどやわじゃない。この世界に生まれてずっと栄養不良児やってきたんだよ!

 ろくなもの食べてきてないから、食べ物があればがっつくよ!

 まったく。栄養失調だったせいで、同じ年齢のエルフよりもずいぶん小柄なんだから。このまま小柄な状態で成人しちゃったらどうすんの?

 ロリババァになっちゃうんだよっ!

 900年もロリババァと言われ続ける生活なんて御免だし、ロリコンの餌食なんてまっぴらだよっ!私だって、ちゃんとした恋愛……は、無理だなぁ。

 人間相手だと寿命の問題がある。そうなるとエルフ……。

 無理だよっ!エルフ顔なんて見たくない!トラウマだよ、トラウマ。

 よし、我が人生に恋愛はいらん!人間の三大欲求は、日本では「睡眠」「食欲」「性欲」っていうけど、海外だと「睡眠」「食欲」「排泄欲」だとか。まぁつまり、良く寝てよく食べて出すもん出せば幸せになれるわけよ。

 っていうか、私はとっても欲深い。特に食欲!

「違うよ。オークも食べるけど、別のものも食べたくなったの!だから、それ持って河原へレッツゴー」

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