第7話 *
んー、指が痛い。
あれから池の深さを木の棒で確かめ、深くない場所の安全を確認しながらハスの実をたくさん収穫。
実を一つずつ取り出して、皮をむいて天日干し作業。
皮むきで指が痛くなったから続きは明日……。
今日食べる分のカタクリの搾りかすと花、それからハスの実を持って村のはずれの掘立小屋に戻る。
昨日石を組んでつくったかまどもどきの場所に食材を置いて薪を取りに掘立小屋の裏に回った。
「え?何をしているの?」
薪を抱えた男の子がいた。
「お前の代わりに運んでやってるんだ!」
そう言って、男の子は薪を抱えたまま走っていった。
すぐに別の男の子が来て、同じように薪を抱え上げる。
「や、やめて!勝手に持って行かないで」
料理する薪がなくなっちゃう。
「うるせー!お前が持ってこないせいで、俺が薪拾いさせられるんだぞ!」
男の子が、引き留めようとして伸ばした私の手を薪にする枝で叩いた。
「痛っ」
「はっ。もっと痛い目にあいたくなきゃ、ちゃんと明日からは薪を持って来いよ!耳なしがっ!」
バシッと、太ももを木の棒で叩いて男の子は薪を抱えて去っていった。
「痛……い……」
叩かれた手の甲は赤くなっている。太ももも同じようになっているだろう。
「どうして……」
一人で使うには1か月は十分にもつだろう集めた薪。
村人に持って行っていた3日分ほどの量の薪がなくなっている。
男の子たち以外も持っていったのか、それとも男の子たちがあちこちに運んだのかは分からない。
今までは薪を持って行けば木の実の1つ、硬いパンの1つも貰えたのに……。
目の前には、取りこぼした枯れ枝が数本転がっているだけで、木の実一つ残されていない。
カタクリを焼く薪にも足りない。
ぺたりと座り込む。
全身から力が抜けた。
どうして……。
涙が頬を伝う。
「どうして、どうしてっ」
私が何をしたの?
ただ、他の人より耳が短く生まれただけ。
風の精霊の祝福が弱くて魔法が使えないだけ。
それだけで、私は父親に捨てられ、義母や異母妹にいじめられ、村の人にこき使われ、痛めつけられ……。
誰もが見て見ぬふりどころか一緒になっていじめる。
「あああ、ああ、ああああ」
声を上げて泣いた。
村の外れの掘立小屋でいくら泣いていたって誰も声なんてかけやしない。
「うるさい」と言われたら。もっと大きな声を出してやる。
いいよ、もう。疲れた。
殴りたきゃ殴りゃいい。
でも、声が枯れても大声で泣いてやる。
殺せばいい。この地が汚れて精霊の加護がなくなってしまってもいいなら、私を殺せと言ってやる。
風の精霊の加護から得た力で、同族殺しをすれば、きっと加護はなくなる。
そう言って、笑ってやる。
ああそうだ。
手首を切って、血を垂れ流しながら村を一周してやろう。
私の血で汚れる?なら汚れればいい。血の匂いに魔物がやってくる?知らない。
ざまぁって笑って死んでいくわ。
「あははははは」
こつんと、頭に何かが当たった。
石でも投げつけられたかと思ったら、足の上にころりとハスの実が落ちてきた。
誰が!
周りを見ても誰もいない。
「ああ、怒ったのね。風の精霊……あなたが私にハスの実をぶつけたのね……」
心が急に冷えた。
……いつも慰めるように頬を優しくなでていた風。
精霊が見守ってくれているんだと、私は一人じゃないんだと、それが心の支えだったのに。
とうとう、本当に一人になってしまった。
精霊にも見放されてしまった……。
あまりのショックと悲しみで、声も出なくなった。
ああ、声を上げて泣けるときは、まだ大丈夫なんだ……と、ショックを受けているはずなのにそんなところだけ冷静に物事を考える。
こつん、こつんと、地面に座り込んだ私の足にハスの実が当たっている。
風で転がされてコロコロと私のもとへと運ばれてきては、こつんと。
私を痛めつけようという意図は感じない。
そういえば、頭に当たったのも……。
頭に当たって落ちたハスの実を拾う。
「痛くはなかった……」
ポロポロと、今度は悲しみではない涙が落ちる。
「もしかして……怒って……ないの?」
ふわりと頬を風が撫でる。
そして、どこから運んできたのか、花の香りがする。
前世の記憶が戻ったから、このにおいの正体に気が付いた。
「ラベンダー……」
安眠が有名だけど、鎮静効果もあるんだよね。
落ち着けということかな……。
「ありがとう」
ハスの実をむいて口に入れた。
お腹が空いていてはいい考えが浮かばないもんね。
精霊が風で運んでくれたハスの実を食べて、掘立小屋の板の上に寝転がる。
そういえばハスの実も薬膳料理では養心安神……精神を安定させる効果があるとされてるんだっけ?
ふわふわと漂うラベンダーの香りに包まれて、瞼が下りた。
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