番外編

過去編1.急展開の六年目 前編

「あー、もっ。最悪……」


机に突っ伏して、誰にも聞こえないように声を出す少女。彼女は白藤 姫乃しらふじ ひなの。中学二年生なったばかり。自称、恋する乙女である。


姫乃が想いを寄せるのは、須藤 伊織すどう いおり。二組の男の子だ。

そして、姫乃のクラスは一組。もう絶望の極みである。泣きたい。


(好きになってから一度もクラス離れたことなかったのに……。ホントに最悪)


姫乃が伊織を好きになったのは、小学四年生のとき。そこからここまで一途に想ってきた。だが、これまでの数年、姫乃は何もしてこなかった。


(だから、小六のときも――)


ついネガティブなことを考えてしまった。もう、付き合っていないはずなのだ、伊織は。


「あれ、姫乃?」

「えっ、姫乃ちゃんじゃんっ!」

「あ、え?綾菜ちゃん、菜那ちゃん……」


姫乃がバッと顔を上げると、目の前には井上 綾菜いのうえ あやな、そして、蒼井 菜那あおい なながいた。


「なんか、久しぶりだね」

「だね~。これからよろしくっ!」


菜那はニカッと笑った。いつも元気で明るい人物だ。姫乃も「うん」と言ってはにかむように微笑んだ。


◇◆◇


「ひなのんはさー、好きな人とかいるの?」


中学二年生になってから数か月。伊織との距離は元々遠かったのもあってか、少し慣れてしまった。

実技の授業での作業中、綾菜と菜那がやって来た。


「えっ、あー、うん……一応?」

『まじっ!?』

「え、待って。初耳」

「それな。誰~?」


楽しそうに姫乃を追求する二人に、姫乃は恥ずかしそうに二人から目を逸らす。


「同じクラス?」

「ううん、二組」

「あれま……」

「じゃあさ、次の休み時間名簿見に行こ?」

「え、えぇ~……」


ということで、姫乃たちは休み時間、二組に向かった。

教室に入り、後ろの壁に張り出されている名簿を見に行く。

後ろから急に声を聞いた。


「……ん?あれ、綾菜。何しに来たの?」

「ん?あー、秘密!」


森川 颯もりかわ はやてだった。綾菜の返答に「ふぅん……」といじけたような顔をして、席に戻って行った。


(そういえば、この二人、付き合ってるんだったなぁ)


ぼんやりそう思いつつ、姫乃は名簿を見る。伊織の出席番号は15番だ。


「……何番から何番くらい?」

「20より前」

「おー。じゃあ、海斗?」

「違うかなぁ……」

「じゃあ、伊織か!」


菜那がにやけてそう言った。姫乃は無言で目を逸らす。


「……っ」

「えっ、まじ?」

「ちょーいいじゃん!応援する~」

「あ、ありがとう……?」


アピールなどする気もない姫乃は曖昧に頷いた。アピールなんて、どうすればいいのかも分からないし、クラスが離れてしまった今ではもう見れるだけで嬉しいのだ。話してしまったら、死んでしまう。推しのような存在になりつつある。


次の日。登校して本を黙々と読んでいると、目の前に誰かが座った。

ゆっくりと視線をあげると、いたのは颯だった。


「何?」

「好きな人って誰なん?」


(あーちゃん――っっっ!)


「さぁ?」


姫乃は誤魔化す方向で動いた。下手に口を開いては、普通にバレる。


「昨日二組いたよな?」

「そうだね」

「じゃあ、二組か。出席番号は、前半?後半?」


(……どっちとも言えない)


この学年のクラスの人数は30人。15番は丁度真ん中だ。


「さぁ?」


まぁ結局、颯にもばれてしまうのだが。


◇◆◇


「もうちょっとで修学旅行だね~」

「ね、早すぎる……」


もうすぐ修学旅行となった。現在、中学三年生。綾菜や菜那、伊織とはクラスが離れてしまった。


そして、目の前にいる人物は椎葉 心蕗しいは こころ。ふわふわとした感じの雰囲気が可愛らしい。ゆったりとした所作が綺麗だ。それなりに話せるが、今日は一番仲良しの子がお休みらしい。


「五時間目ね、修学旅行のバスの座席を決めるんだって~」

「そうなんだ。……確か、二つ決めるって言ってたよね?沖縄でのバスと、空港と学校の間の」

「そうそう。二年生のときとは違って、バスは二つだけだから、他クラスとも一緒のバスになれるんだよ~。嬉しいよね~」


そう言って、心蕗は微笑む。

顔立ちが整っている。可愛い。実は、密かに姫乃は心蕗を推していた。

話は戻るが、姫乃たちの学年は三クラスだ。修学旅行の行き先は沖縄。沖縄でのバスと、学校と空港の行き帰りをするバスは別になったらしい。



そうして、五時間目。三年生全員は体育館に来ていた。


(どうしてこうなった……っっ!)


姫乃はバス酔いするタイプだ。席は前の方にしてもらった。そして、忘れてなどいなかったが、伊織もそうだった。たまたまバス号車が同じだったのもあるだろうけど。

伊織と、姫乃は――通路を挟んで隣になってしまったのだ!!


(キャーッ!!ヤバいヤバい。伊織くんとほぼ隣!?顔いっぱい拝める……!)


ちなみに、沖縄でのバスはバス号車すら違う羽目になってしまった。だが、姫乃にはそんなこと頭にはいっていなかった。


そうして、体育館からの帰り。


「あっ、ひなのんっ!」


トントンと肩を叩かれ、後ろを振り向くと、綾菜がいた。


「あーちゃん!やっほー。席どうだった?」

「うーんとね……」


綾菜が恥ずかしそうにしたので、姫乃は耳元で言ってもらった。


「颯と隣になった……!しかもどっちも!」

「えっ、ホント!?良かったね!!」

「そう〜!ひなのんはどうだった?」

「そのね、私もすごくすごくて……」


姫乃ははにかむように微笑み、綾菜に耳打ちした。伊織と隣になったことを話す。


「え!えっ!!えー!!おめでと!」

「そう〜。もうマジでヤバい」


綾菜は自分のことのように笑って喜んでくれた。

語彙力がかなりなくなっている。姫乃はかなり冷静ではなかった。

そうして、修学旅行の日を迎えた。



私事ですが、X(旧Twitter)始めました!私の日常の話とか小説に関して思いついたことを書くだけですが、ご興味ありましたらどうぞ。


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