冒険が俺を呼んでいる〜異世界に転移した俺が、創世神話の続きを紡ぎ、物語の主人公になるまで〜

アジカンナイト

第1話 1ページ目

「ピートよ……ドラゴンの倒し方知っとるか?」

 

「どうやって倒すの?」

 

「ドラゴンは、ブレスを吐く時が無防備。口を開けてアホ面晒しとる瞬間を狙うんじゃ」

 じいちゃんはそう言うと、ベッドの上に立ち上がってブレスを吐くドラゴンの顔真似をした。


「なにそれ……変な顔」


「仕方がないじゃろ。これが本物のドラゴンじゃ」


 じいちゃんは本物のドラゴンについて熱く語ってくれた。

 ブレスがどれだけ脅威で、翼を広げるだけで街が吹き飛んで行くほどの被害が出てしまうとか。

 

「さて、もう寝る時間じゃな」


「まだ話してよ」


「続きは明日の楽しみに取っておくんじゃ。じゃ消すぞ」

 

 ――じいちゃんはいつも楽しそうに冒険の話をしてくれた。

 俺は話を聞くたびに“ワクワク”した。

 だって、じいちゃんはいつも俺を、剣や魔法を使ってドラゴンと魔王を倒す冒険に連れて行ってくれたから。


 でも今は……冒険に出かけることはなくなってしまった。

 

 じいちゃんが亡くなってから……毎日同じ景色を見て、同じことを繰り返しているうちに、“ワクワク”は遠い昔に置き忘れたものみたいになっていた。

 友達と遊んだり、漫画やゲームで楽しむのも好きだけど……そういう遊びから、あの時みたいな気持ちを感じることはなかった。

 うまく説明できないけれど、何かが足りなかったんだ。

 

 あの気持ちを諦めきれなかった俺は、“ワクワク”を追い求めて、色々なことに挑戦しつづけた。

 

 将来、俺の冒険物語を誰かに話したい!魔法を使ったり、ドラゴンを倒してみたり、勇者になってみたい!

 気づけば、物語みたいな大冒険をすることが俺の夢になっていた。

 

 ……でも一つだけ、大きな問題があったんだ。

 それは……この世界には、魔法もドラゴンも勇者も存在しないってこと。


 でも最近、一つの解決策を見つけたんだ。


 目を閉じる。

 すると目の前にうす暗い洞窟が広がった。

 奥に進むとドラゴンが待ち構えていた。

 そいつは火を吐き、唸り声をあげた。


「出たな、ドラゴン!」

 俺はドラゴンに剣を向ける。

 

 じいちゃんの言葉を思い出す。

『ドラゴンはブレスを吐く時に、無防備になる。その瞬間を狙うんじゃ!』

 

 ドラゴンが大きく口を開いた今が……チャンス!

 

 俺は、目の前のドラゴンに勢いよく勇者の剣を振った。

「そりゃあっ!」

 

 振りかざした剣はドラゴンの頭を直撃し、ドラゴンの巨体が崩れ落ちた。

 

 フッ、勇者を舐めるな!

 これが俺のドラゴン退治物語だ!

 

 だけど、ドラゴンは最後の力を振り絞ると、口からたくさんの本を吐き出し始めた。

 その光景に一瞬戸惑った。

 口から本?……まずい、そうだった。

 

「あっ」

 気づいた時には遅かった。

 

 どさどさどさどさどさっ!

 目の前の本棚が崩れ落ち、埃と本が宙を舞う。


「ケホッ……ケホッ」

 やっちまったぁ。

 目の前に散らばった本を見て、数秒前の自分を恨んだ。

 

「遊んでないで、さっさと掃除しちゃいなさい!」

 母ちゃんの声で現実に引き戻される。

 

「わかってるよ」

 ため息をつきながら、散らばった本を一冊ずつ戻していく。


 まぁ見ての通り、問題は解決していない。

 魔法もドラゴンも勇者もその存在は夢の中だけ。

 つまらない。

 

 俺の名前は葛城ピート。十一歳。

 この名前はじいちゃんがつけてくれた大切な名前。

 今は、亡くなったじいちゃんの部屋を掃除している真っ最中である。

 

「ふぅ……これで最後っと」

 

 床に落ちた最後の本を手に取った。

 本のタイトルは『竜王と聖杯』。

 

 じいちゃんがよく読んでくれた本で、異世界の言語で書かれた本だとじいちゃんは言っていた。

 最初は一文字も読めなかったけど、じいちゃんから異世界の言語を学んだ今は、読むことができる。


 ペラペラとページをめくって、挿絵の竜王を見つける。


「そうそう、これこれ!この本は、竜王の絵がかっこいいんだよね!じいちゃ……」

 

 そうだった、居ないんだ。

 

 本を本棚に戻し、床に座り込む。

 静まり返った部屋はきれいすぎて、まるでじいちゃんの部屋じゃないみたいだった。

 

「夕ご飯できたよー!そろそろ降りてきたらー?」

 

 母ちゃんの声にハッとして窓を見ると、空はすっかり夕焼け色だった。

 もうそんな時間か……。

 

 カーテンを閉めようと、立ち上がったとき――床に一枚の手紙が落ちているのに気がついた。

 

「……ん?」

 

 本に挟まっていたのが落ちたのかな?

 拾い上げてみると、そこには見覚えのある文字が書いてあった。

 

 『ピートへ』

 見覚えのあるカクカクとしたクセのある字。

 じいちゃんが書く文字だった。

 

 胸が熱くなった。

 もう聞けないと思っていたじいちゃんの声が手紙から聞こえてくる、そんな感じがした。


 また、冒険に連れていってくれるかもしれない……。

 

 俺はドタドタと階段を駆け降りて食事の席についた。


「ちょっと、ピート。落ち着いて食べなさい」


 手紙が楽しみすぎて、晩飯は直ぐに食べ終わった。


「ごちそうさま」


「歯を磨きなさいよー!」

 下から響く母ちゃんの言葉を無視して急いで自分の部屋に戻る。


 今まで、じいちゃんから手紙をもらったことなんてなかった……。

 だからか、この手紙がすごく特別で――何かが始まる予感がしたんだ。


 俺は手紙の封をハサミで切った。

 

 ――中には、こう書かれていた。

 『じいちゃんの机の中に、きっとピートが望む冒険が待っている。◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇』

 

 読めない部分もあったけれど、内容を理解するのには十分だった。

 ……机の中に冒険がある!


 忘れかけていた胸の熱さを感じ始めた俺は、急いでじいちゃんの部屋へ行き、机の中を探す。

 引き出しを上から順番に開けていくと、空の引き出しが続き、あっという間に最後の引き出しを迎えた。

 

「あった……!」


 最後の引き出しの中にあった物、それは分厚い黒い本だった。

 黒い革表紙の本は、少し埃が被っていて題名が隠れていた。


 埃を拭き取ると、見たことのない文字で書かれた題名が現れた。


「何語だこれ?」


 異世界の言語じゃないし全く分からない。

 全くじいちゃん、教えてよ!


 まぁでも大事なのは中身だ。

 

 恐る恐る、ページを捲ってみる。

 

「ドラゴンと勇者の絵!?」

 

 書かれている文字は相変わらず読めないけど、描かれていた絵に心臓が跳ねた。エルフ、ドワーフ、光り輝く剣、魔法使い……本物みたいな絵に心を奪われた。

 絵の中に自分はいないはずなのに、絵の中に飛び込んでいるようなそんな感覚を覚えていた。


「はぁ……これで終わりか」


 気づけば、あっという間に最後のページになった。

 

 深呼吸して目を閉じる。

 

 そしてゆっくりと、最後のページを捲った。

 まだ見ぬ冒険を求めて……。

 

 ……捲ってみると、そこには何も書かれていない、ただ真っ白のページがあるだけだった。

 

「真っ白……?」

 

 突然、ページが光り始め、白い光が部屋を覆う。

 見たことのない文字達が本から飛び出し、単語を作り出す。

 そして、目が眩むほどの白色の眩しさに視界を奪われた。


「まぶしっ!」


 まるで本に飲み込まれて、身体が溶けていく感覚。

 

 ――気がつくと、俺は森の中に立っていた。


 

 ……現実世界に残された手紙。

 夕陽に照らされた手紙の文字には、こう書かれていた。

 

『じいちゃんの机の中に、きっとピートが望む冒険が待っている。』


 レーゲン・イシュタルトより


 



 


 

 

 


 

 


 


 

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