育毛剤を毛にちゃぷちゃぷ

さわみずのあん

THE 毛列がバラバラなお話

 良く言えば、赤ちゃん。

 悪く言えば、落ち武者。

 朝。鏡の前。

 頭頂部の朝靄、かすみを、

 隠すように。

 側頭部の養毛の滝。

 そこから、櫛とムースとで、

 引っ張って引っ張って、

 伸ばして伸ばして、

 引っ張って引っ張って、

 伸ばして伸ばして、

 バーコードヘアを作る。

 二十年残っている家のローン。

 止まらない妻の散財。

 留学したいという娘。

 金金金金。

 時間とストレスと頭髪を、

 金に交換しに行くため、

 身だしなみを整える。

 洗面所の扉が開く。

 娘だ。

「まだやってんの? パパ」

「ああ」

「鏡の前は、女の子の特権なんだけど」

「別にいいだろ」

「はあ。ケチャップでも頭にかけたら」

「……なんだ、ケチャップで生えるのか?」

「毛! Cheer up! ってこと」

 つまらないジョークは、

 親爺の特権。

 とは言わなかった。



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