第29話 冒険者ギルドで初手カオス ― 勇者(仮)、受付嬢に試される

「よっしゃリクさん! 朝一でギルド行くっすよ!」


「お前……テンション衰えねぇな。」


『ジロウのテンション係数、常時120%。正常です。』


朝の村道は人で賑わっていた。なんかもう、

昨日の“遺跡騒ぎ”が完全に村の名物扱いになっている。


「勇者(仮)さまー! 今日も働いてくださーい!」


「働く前提!?」


ジロウは胸を張る。


「異世界と言えばギルド! ギルドと言えば受付嬢!

  受付嬢と言えば異世界テンプレ!」


「お前は何の研究家なんだよ。」


ミナは淡々と言う。


『統計上、異世界における主要な

 スタート地点は“ギルド受付”です。』


「ミナまでテンプレ解説はやめろ!」


ギルドは村の中心、でっかい木造建物だった。

扉を開けると――


「うわ、既視感すげぇ!」


「リクさん! 右側に酔っ払い戦士!

 左側に情報屋! カウンターには

 絶対受付嬢っすよ!!」


「お前、どこの資料読んだんだ。」


奥から、すらりとした女性が現れた。

金髪、笑顔、メモ帳を構える完璧な受付嬢。


「いらっしゃいませ。

 冒険者ギルド《ホワイトベル》へようこそ。」


はい出たー!! 完全にテンプレのやつー!!


ジロウが肩を掴んで揺さぶる。


「リクさん!! テンプレ来ましたよ!!

 これ絶対攻略ルートっす!!」


「揺らすなジロウ、俺は珍獣じゃねぇ。」


ミナがひそひそ声で言う。


『ジロウ、感情の振れ幅が大きすぎます。

 酸素消費量も増しています。深呼吸を推奨。』


「AIさん、仕事が保健室!」


受付嬢が微笑む。


「登録をご希望で?

 それとも依頼の紹介でしょうか?」


リクは胸を張って――ほんの少し噛んだ。


「と、登録で……。」


ジロウが肘でつつく。


「噛んだ! 勇者(仮)噛んだ!!」


「お前は実況解説やめろ!」


受付嬢は慣れたように頷く。


「はい、では“ギルドお約束の質問”を行います。」


ミナがピクッと反応した。


『この流れ、予測していました。』


「ミナ、メタ発言禁止!」


受付嬢の質問が始まった。


「あなたの職業は?」


「整備士兼……観測者、そして、まあ、勇者(仮)。」


「仮は取れませんので

 正式に“勇者(仮)”で登録いたしますね。」


「勝手に認定すんなぁ!!」


「次に、特技は?」


リクはちらっとミナを見る。


「コーヒー淹れられます。」


「冒険にどう役立つのでしょう?」


『精神安定効果、戦闘後の回復、

 チームモラル向上に有効です。』


「AIが全部説明しやがった!」


受付嬢がにっこり。


「とても良いですね。では――」


机の上に “測定球” と呼ばれる

透明なオーブが置かれた。


「魔力量を測ります。」


リクは眉をひそめた。


「魔力? 俺ないぞ。」


『問題ありません、リク。

 あなたには“ミナ”があります。』


「ちょ、お前を魔力扱いすんな!」


が、測定球に触れた瞬間、


バチンッ!!!


ド派手な光が爆裂した。


受付嬢「!?」


「うおおおおお!? 魔王かよリクさん!!」


『観測者の精神波形が増幅され、

 私の演算エネルギーと共振したためです。』


「つまりどういうことだ?」


『まとめると、

 “魔力ゼロなのに魔力暴走した人”という結果です。』


「一番困るやつじゃねぇか!!」


受付嬢は少し震えながら判定を下した。


「……ええと……

 結果は……

 

 “規格外(その他)”です。」


「その他って何だよ!!」


ジロウは拍手した。


「リクさん!!

 個性で殴るタイプの主人公っすよ!!」


「褒められてねぇ!」


受付嬢はにっこり笑って言った。


「ようこそ冒険者ギルドへ。

 あなたの登録ランクは――」


ミナとジロウが身構える。


リクも期待する。


「――Eランクです。」


「一番下かぁ!!」


ジロウ「テンプレ通りっすね!!」


ミナ『想定内です。』


「お前ら分かってて盛り上げやがったな!!」


ギルド中がどっと笑う。


こうして、勇者(仮)リクの冒険が正式に始まった。

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