限界集落の竜王 ドラグーン

疾風の刃

第1話 限界集落、電波なし。~少年の夢は聖域探し~



「限界集落とは、地域に暮らす住民の半数以上が後期高齢者。つまりお爺さんや、お婆さんで占められている地域なわけで、そんな場所に僕は、両親の田舎でカフェを開いてレッツラ!エンジョイスローライフ ♡ 、とかいうエゴの犠牲になっているわけで……。花のみやこ、大東京で暮らしたあの頃。毎週末は、秋葉原ヘブンザワールドに通い大好きなカードゲームを、四十過ぎても嫁も彼女も居ない、異臭を放つ聖戦士な友人達と共に、時間を忘れデュエルに明けくれ、戦いで傷つき疲れた体と心を、メイドカフェの癒し系メイドさん達が煎れてくれる。一杯800円の珈琲で癒し、アニメや特撮談義に弁舌を何時間も奮い、東京の一等地にありながら築四五年のボロ家ではあるが、それなりに愛着のあったマイホームで朝までネットゲームで世界の危機を救う大冒険浪漫ファンタジーな毎日を過ごしていたわけで。あの懐かしき日々は遥か彼方のオデッセイなわけで……つまり僕が、言いたいのは東京ホームタウンに帰りたいというたったひとつの願いな、わけで……。」


「……長い! 長いよ‼ 物語の冒頭から台詞せりふが長いよ琉斗りゅうと‼ お父さんびっくりだよ琉斗りゅうと‼ 何、いきなり某、北の方の国からのナレーション的な奴をだね? お父さん、朝ごはんを食べながら聞かされてるの? それにお前、その眼鏡、お父さんのスペアだよね? 何で眼鏡光らせて手を組んでテーブルに肘乗せてるの? 特務機関の司令の人のコスプレのつもり的な感じ? 何ぞ? 何様? 嫌味? イヤミな感じ? おフランス帰りなの? シェ〜〜って? わかる? シェ〜よ? あと聖戦士? 何それ? オーラの泉がロードで開かれたの? お前、そんな年上レジェンドな方々がお友達だったの? 同学年の、御学友ソウルメイトは? これって教育上的にお父さん、怒った方が良い系? あとメイド喫茶? それは未成年が立ち入りOK系なお店なの? ちなみに追加オプションで、大人向けのHなサービスとかもある系な感じだったりする系のお店だったり? 店のお名前をお父さんにだけ、コッソリ教えてくれたりは? ……ちょっ お母さんも何か言ってやって~~~! この生意気なクソガキ‼ もとい愛しい我が子に〜! 自由の戦士ニートに〜!」


「ちょっ! お父さん‼ 夏休み中の小学生の息子をニートと呼ぶのは辞めてね ⁉ ︎もぉ〜朝から元気なんだから! 二人とも! お店の開店時間までもう時間ないんだから、早く食べてね ⁉ さっさっとね! 琉斗りゅうとも今日から、夏休み何だから! 宿題なんて、適当に済ませて外に出撃して存分に見聞を広めていらっしゃいな! 周りに山しかないけども‼ そこは、有り余る小学生の自由な感性と閃きで、何とかカンとかしてね? でも、熊とか猪とかヤバイ森のお友達が沢山いるらしいからあんまり森の奥まで行かないようにするのよ? お父さんも早く食べて! 今日の分のカレーの仕込み終わらせてね? タイム伊豆ウインナーよ?」


「……お母さん?今、タイム伊豆ウインナーと言った?言ったよね?」

「言ってないわよ?」


何処にでもある普通の一家の普通の朝食の風景、ここは日本の東北にある某県某市に存在する『竜王村』村の人口三四十名その六割を七五歳以上の後期高齢者が占める。いわゆる限界集落であるが近年のスローライフブームにより若い世代が流入し始めて、微々たるものではあるが活気のある村となり始めていた。


東京の一部上場企業に勤めていた高岡二郎、四五歳は心身を鰹節の如く粗削りする都会の暮らしに見切りをつけて早期退職を決意し愛する妻、高岡早紀、三七歳と生意気盛りで思春期の入り口に片足を突っ込んだ一人息子、高岡琉斗たかおかりゅうと、十歳。小学五年生を連れて昔からの夢であった『田舎でスローライフ』&『オシャレカフェ』オープン! を実現すべく退職金と貯金を全て注ぎ込み「CAFE森の熊さん ♡ 」を東北の限界集落、竜王村にオープンしたのである。


『無茶無謀な挑戦であると思われたが、限界集落である竜王村で突如として爆誕した村唯一の飲食店は竜王村付近で進められている国の大規模公共工事にして何故か米国の研究機関と共同で進められている新エネルギー政策で推し進められている地方創生大規模太陽光発電施設。メガソーラー発電所建設の開発関連業者の職人達やどう見ても堅気かたぎではない謎の外国人達、新旧の村民達に大変好評で開店以来、千客万来の忙しさであった。田舎で悠々自適なスローライフを夢見てやってきた高岡家の家長である高岡二郎、四五歳は東京の一流企業で企業戦士ゾンビとして身をパウダーにして働いていた時、以上のオーバーワークに晒されていた。……因果応報である』


「……ねぇ琉斗りゅうと? リュートゥス? ユートム? 琉斗りゅうとさん? 何? 何か良い感じのナレーション的な奴がね? お父さんの頭の中にね? 愛しい琉斗りゅうとの声でね。流れてきたのだけども? 因果応報とも聞こえてきたのでありますが? 君は、田舎に引っ越しをした事で、特殊な能力に目覚めたのかな? それでお父さんに、念を飛ばして会話出来るようになったの? ニュータイプ? それとも心の声が意図せず溢れ出るパッションとなって、お父さんさんの脳髄を容赦なく素敵に直接攻撃してくる感じなのかな? それとも東京にいた頃よりも忙しくなったせいでお父さんの頭が、おかしくなったのかな? ……あとゾンビ……? お前、お父さんをそんな風に思ってたの? ショック! お父さんハチャメチャにショックよ? ……後、お前、よくそんな長い台詞せりふをペラペラソースできるよね? 劇団員? 劇団チェリー? ウチの子、俳優の才能あるかもマジで……」


『独特な言い回しと意味不明な名が台詞せりふで、息子にストレスと言う名の圧力をかける父に苛立ちを覚える琉斗りゅうとは、そそくさと朝食を終えると毎日の日課に出かける為、カフェ兼自宅から元気よく飛び出すのだった……』


「え? 何? 毎日の日課? 健全な青少年が毎日する日課て……ハウジングでするもんじゃないの? アレじゃないの? 十歳はまだしない感じ? あと、お父さん琉斗りゅうとにストレスと言う名の圧力鍋でじっくりコトコトしちゃってる感じ? だとしたら何か、ごめんなさいね〜アレ? 無言? 無言でおでかけ? どちらまで? ……あ〜思春期は難しい〜マジムジィ〜、無理ゲ~~じゃね?」


親のエゴイズムの犠牲者にして何処にでもいる普通の元自称シティボーイ小学生にして現在進行形カントリーボーイ小学生、高岡琉斗たかおかりゅうと、十歳小学五年生の毎日の日課。

それは、竜王村に僅かながら点在するスマホの電波をキャッチする事が出来きて尚且なおかつスマホゲームアプリを快適な通信速度でストレスなく誰に身邪魔される事無く、無心にひたすら心置きなく遊戯プレイできる聖域サンクチュアリを探す事である。


令和の時代においてもこの限界集落に住まう住民達が日々愛用する外部との通信手段は、昔懐かしいダイヤル回転方式の黒色固定電話と村役場ギルドが村のあちらこちらに設置した村内放送用スピーカーである。

東京からやってきた令和に生きる、最先端通信技術社会の申し子サイバネティクスである現代っ子スピナーにとってこの事実リアルが、如何に脳天直撃な出来事ショッキングであったか。聡明なる読者の皆様にはご理解頂けるだろうか? そして何より、スマホ依存症の現役バリバリ重篤患者にとって、スマホの電波を探す事は地球を救うより重大かつ、時間という尊い財産を失っても手にしなければならない、他の何にも代えがたい神聖なる使命ミッションなのである。


高岡琉斗たかおかりゅうと、十歳小学五年生は何故、夏休みという全国の小学生に平等に与えられた貴重な時間をスマホの電波を探す。という愚行に費やすのか? それは、琉斗りゅうとをはじめ全世界の小学生から大人達までもが度ハマりしているユーザー登録者数全世界2500万人のMMORPG。

竜王騎士ドラグーンナイツversion2.0】(スマホ版)をプレイする為である。

大好きなゲームをプレイ出来ない 。 これはゲーム大好き否、ゲーム廃人マスター小学生にとって死刑判決にも等しい事だと世の中の大人達は理解しなければならない。

故に琉斗りゅうとは、スマホの電波探して山深い竜王村を日夜、駆けずり回るのである。

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